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「場所とか、時間とか決まってますか?」
東堂さんに質問をして、
俺はなんとなく視線をカレンダーに向けた。
本当は場所が何処だろうと時間が何時からだろうと、憂に会えるなら必ず行くけれど。
「19時から志波裏駅前の『壱ノ酉』ってお店だって。ごめんーー…僕何食べたいか聞かれて、焼き鳥って言っちゃって…
たまにはほらーーー…ワインじゃないもの飲みたくない?」
申し訳なさそうに東堂さんが笑うと目尻に優しげに皺が寄った。
俺と十歳差の東堂さんは、俺と出会ったばかりの頃から笑うと目尻にこの皺が出る。それは東堂さんの人柄というか、優しさを表している気がして、個人的にはチャームポイントだと思っている。
「焼き鳥俺も久々なんで、大賛成ですーーー
ーー行きましょう、めっちゃ食べたいです、焼き鳥」
「よかった。平君優しい」
東堂さんは更に目を細めて笑ってくれる。優しいのは、東堂さんだ。
本当に俺が優しいなら、憂を恋人である黒谷丈から奪おうだなんて思ったりしない。
仕事の都合で2人が遠距離恋愛になっているのを良いことに、憂を黒谷から奪おうと考えているんだから、自分で自分を嫌な奴だなと思う。
でもーーーこれは別に良いのかーーー
だって最初に嘘をついて俺と憂を引き剥がしたのはーーー紛れもなく黒谷の方だ。
付き合っても無いのに記憶喪失になった憂に自分が恋人だと吹き込んでーーー何も知らない憂の過去を作り変えた。
そして今もーーー彼女を自分の恋人として側に置いている。
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