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「モップ終わりーーーっと… 僕熟成庫と畑行ってくるから、平君ワインショップの清掃もお願いしていい? 昨日の夕方『ROSSO(ロッソ)』大量にご購入されたお客様いるから、補充もよろしく」 俺は頷き、拭き掃除をした布巾を洗いに事務室の中へ入った。 ROSSOは店で取り扱っている、まろやかな口当たりが人気の赤ワインだ。俺も最初に赤ワインを飲む人になら、迷わすROSSOを進めるだろう。 布巾を洗い終え、ゲストハウスの隣にあるワインショップへと足を踏み入れる。朝のワインショップは電気が付いてはおらず、しんと静まり返っていて空気が澄んでいる気がする。 熟成庫をイメージして作られたこのワインショップの隅にはテイスティングカウンターがあり、気になるワインを一杯から試飲できる。 カウンターのテーブルはワインを作る樽をイメージして作られたもので、ワインショップ全体の形も熟成庫をイメージしたトンネルの様な形をしている。壁や天井に耐震ガラスを多く使用し、自然の光が店内に優しく入り込む作りは朝、昼、夕方ーーーそして夜と店内の表情を変えてくれる。 東堂さんのこだわりが詰まったこのワインショップは、俺がアルマディージョの施設の中で一番好きな場所だ。 俺は先に先程東堂さんから言われたROSSOの補充を済ませ、ワインショップとテイスティングカウンターの清掃に入る。 仕事に集中しなければいけないというのに、今日憂に会えるというだけで頭の中がそれで一杯になる。 こんな気持ちになるのは随分久々でーーー自分で自分を年甲斐も無いなと思う反面、憂に会うとなると身構えてしまう自分が、なんだか青々しくおかしかった。 付き合っていた頃はそんなことは無く、憂と付き合っていても仕事にも友達との遊びにも熱中できたのにーーー今憂と再会してからは不思議なことに、憂は俺の頭から絶対に出て行ってはくれないーーーー
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