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『樹、似合う…?』
当時の憂の、まだ幼い声が蘇る。
憂はある日俺を驚かせようと、黒かった髪を明るい茶色に染めて現れた。
オレンジがかった茶色い髪は色白の憂によく似合っていた。
憂にとって、俺は全てが初めての男性だった。
ーーー憂は俺と出会うまで男性とデートはおろか、食事すらしたことが無くーーー憂は俺と付き合い始めてから蛹から蝶になったかのようにどんどん綺麗になった。
俺はこの時『恋をすると女性は綺麗になる』という言葉を身をもって実感した。
オシャレになった憂はモデルと見間違えられるほどに美しく、デート中に芸能事務所からスカウトされたこともあった。
好奇心旺盛な憂は外見だけで無く、内面も俺の影響を受けては色々なものを吸収して行った。
俺がギターにハマっていると言えば俺のギターの音色を聴いて楽しみ、俺がカメラにハマっていると言えば自分は水彩画を描くからと言い、キャンバスセットを持って俺と景色のいい場所へ出かけた。そして俺がワインの魅力を知った時は自分も一緒にワインバーを巡り…2人で一緒に様々な種類のワインを楽しんだ。
こうやってなんでも一緒に楽しんでくれるからーーー憂といる時間は自分の好きな事をすることができた。
流石に友達との飲み会に連れて行ったりしたことは無かったけどーーー
憂は不思議と一日中一緒にいても少しも疲れない、まるで生まれる前から出会うことが決まっていたかのようなーーーーそんな存在だった。
そんな憂とーーー10年の月日を経てもう一度巡り会えた。しかも憂はーーーまだ青く若く、未熟だった頃の俺の記憶を無くしている。
自分の夢をわがままに追いかけーーー憂を知らず知らずのうちに傷つけたかも知れない俺を忘れてくれているーーーー
そう思えば思うほど、憂ともう一度やり直したくて堪らなくなった。
もう一度あの時のように笑って、一緒に食事をしてーーーキスをして抱き合ってーーーーそんな風にもう一度憂と毎日を過ごしたい。
自分の人生にーーー憂という存在がいて欲しい。
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