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「てか、知り合いなんでしょ?2人」
不意に言われ、俺は駒場さんの方に顔を向けた。
憂も同じ様に駒場さんの方へ顔を向けてから、俺の方へ顔を向けた。
ーーー知り合いっていうか……憂が思い出せないだけで俺は憂の元カレなんだけどーーー…そうは絶対に言えない。
「知り合いーーーというか、平さんがバイトしてた時の私を覚えててくれてて」
憂は駒場さんに告げると「ですよね」と俺に同意を求めた。俺も「です」と頷き、先ほど憂が取り分けてくれた大根サラダを口に運ぶ。
「佐崎は覚えてないんでしょ?
…まぁ昔記憶喪失に一時的になってるから仕方ないのかもだけど…思い出しもしないっていう…
ごめんね失礼で…
佐崎ねこういうところあるのよ…ほんと天然というか…なんて言うか…」
俺は大根サラダを飲み込んでから、駒場さんの言葉をやんわりと否定した。
「いやーーー俺が一方的に声をかけただけなんで…覚えてなくても思い出さなくても無理ないんです。
大学1年の頃はよくそのカフェに通ってたんですけど…途中からはほとんど行かなくなりましたし」
俺が庇うように説明すると、憂は困ったように微笑みを浮かべ「すみません」と小さく頭を下げてくれた。
俺が憂に最初に声をかけたのは、紛れもなくあの店ーーー『エッジハウス』が最初だった。
俺は憂をみた瞬間、ダイヤモンドの原石でも見つけたような感覚に陥りーーー憂を自分のものにしたいと思った。
それで憂の仕事が終わるのを待ち伏せしーーー声をかけたのだ。
メイクもほとんどせず、髪もただ一本に束ねただけの憂に、俺は恋をした。
たった一言二言、会話を交わしただけで。
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