【4】

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「ーーーーーッ!!!」 憂は慌てて立ち上がった。 驚いた様に俺を見た憂は口元に手を当て、頬だけでなく耳まで真っ赤にしている。 目は泳ぎ、明らかに動揺している様子の憂。 キスをする瞬間、もしかしたら引っ叩かれるかもしれないなと思ったが、どうやらそうはならなそうだった。 「ーーーーご……ごめんなさい…!!! …私が……近づき過ぎてしまってーーー… お酒入ってるからか…ぐらっときちゃって… 本当に…すみません…!!! ーーー…私の家…此処曲がって直ぐなのでもう大丈夫です…!!! 今日はありがとうございました…! また…よろしくお願いします!」 憂は一気にそこまで言うと、ストラップを外したままのパンプスで逃げるように背を向けた。 俺が意図的にキスをしたのをわかっていながらーーー憂は自分が悪いと告げて今のキスを事故という事にしたのだ。 俺はその場に立ち尽くしながら、憂はもしかしたら今、俺の事を思い出したんじゃないだろうかと思った。 でなければあんなに真っ赤になってーーー逃げるように俺の前から立ち去るだろうか。 知り合ったばかりの男にこうやってキスされたらーーー普通は怒るだろう。 なのに憂は怒らなかった。 それに俺にキスをされているその間、憂の目はどこか遠くを見つめていた。 それはまるで俺との過去を見ていたかのようで、俺は直感的に憂が俺との記憶を取り戻したのではないかと感じた。 俺は来た道を戻り、自分のマンションのある最寄駅への切符を買った。 キスするつもりは無かった。 ただ憂を見ていたら、歯止めが効かなくなってしまった。こんなにも誰かを欲しいと、奪ってしまいたいとーーーー自分のものにしたいと思ったのは、今日が初めてだった。 次会う時ーーー憂は俺にどう接してくるだろう。 先程の様子を見てもそうなのだけど…いつも図々しいのだが、憂も自分に気があるのではと考えてしまう。 さっきだってあんなリアクションされたら…愛おしくて、触れたくて、たまらなくなってしまうーーーー 俺は家に帰り、玄関で靴とスプリングコートを脱いだ。 直ぐに身体を洗い湯船に浸かり、髪を乾かして布団の中に入った。 眠りにつくまで、俺の頭の中から憂が消える事は、1秒も無かった。
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