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「ーーーーーッ!!!」
憂は慌てて立ち上がった。
驚いた様に俺を見た憂は口元に手を当て、頬だけでなく耳まで真っ赤にしている。
目は泳ぎ、明らかに動揺している様子の憂。
キスをする瞬間、もしかしたら引っ叩かれるかもしれないなと思ったが、どうやらそうはならなそうだった。
「ーーーーご……ごめんなさい…!!!
…私が……近づき過ぎてしまってーーー…
お酒入ってるからか…ぐらっときちゃって…
本当に…すみません…!!!
ーーー…私の家…此処曲がって直ぐなのでもう大丈夫です…!!!
今日はありがとうございました…!
また…よろしくお願いします!」
憂は一気にそこまで言うと、ストラップを外したままのパンプスで逃げるように背を向けた。
俺が意図的にキスをしたのをわかっていながらーーー憂は自分が悪いと告げて今のキスを事故という事にしたのだ。
俺はその場に立ち尽くしながら、憂はもしかしたら今、俺の事を思い出したんじゃないだろうかと思った。
でなければあんなに真っ赤になってーーー逃げるように俺の前から立ち去るだろうか。
知り合ったばかりの男にこうやってキスされたらーーー普通は怒るだろう。
なのに憂は怒らなかった。
それに俺にキスをされているその間、憂の目はどこか遠くを見つめていた。
それはまるで俺との過去を見ていたかのようで、俺は直感的に憂が俺との記憶を取り戻したのではないかと感じた。
俺は来た道を戻り、自分のマンションのある最寄駅への切符を買った。
キスするつもりは無かった。
ただ憂を見ていたら、歯止めが効かなくなってしまった。こんなにも誰かを欲しいと、奪ってしまいたいとーーーー自分のものにしたいと思ったのは、今日が初めてだった。
次会う時ーーー憂は俺にどう接してくるだろう。
先程の様子を見てもそうなのだけど…いつも図々しいのだが、憂も自分に気があるのではと考えてしまう。
さっきだってあんなリアクションされたら…愛おしくて、触れたくて、たまらなくなってしまうーーーー
俺は家に帰り、玄関で靴とスプリングコートを脱いだ。
直ぐに身体を洗い湯船に浸かり、髪を乾かして布団の中に入った。
眠りにつくまで、俺の頭の中から憂が消える事は、1秒も無かった。
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