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「平!!!!」
耳に届いた聞き慣れた大きい声に、俺は振り返った。健太だ。健太は体も大きいが、声もものすごいデカい。
「平あの人と知り合い!?」
突然放たれた健太の言葉の意味が分からず、俺はとりあえず「ああ」と返事をした。
健太も憂とはアルマディージョで面識があるから、健太があの人と言っているのは黒谷で間違いないだろう。
「医大通ってた時の同級生でさーーー
ーー今偶然会って…俺もびっくり」
答えると健太はすでに出入口付近にいる、小さくなって見える憂と黒谷に視線を向けた。
「俺もあの人いつだか見たよ。
MHKの番組でだけど」
「え」
驚きが、口から飛び出す。
MHK…?…なんでーーーー
「プロフェッショナル…仕事の極意…?
だっけ???ーーそんな感じの番組に出てて…
脳外科医なんだって、テレビで言ってた」
脳外科医ーーーー?
心の中に言い表せないざわつきを感じる自分。
なんだろう。この、嫌な感じ。
「なんか大学生の頃からずっと脳外科を志望しててーーー…脳研究への熱意から技術の向上を目指してアメリカに渡った的なこと言われてたぜ?
ーーーなんかよく覚えてないけど…自分の医療技術を向上させる傍ら…記憶に携わる海馬だか大脳皮質について主に研究してるとかなんとかーーーー」
俺は健太の言葉を聞きながら、憂の話を思い出していた。
『私…3年生の冬に交通事故に遭ってしまってーーーーー雪が降った日でスリップした車が私を撥ね飛ばしたらしくて…』
憂は確かにそう言った。
でもそもそも、この事故の記憶もーーー憂が黒谷に後付で入れ込まれたものに他ならない。
憂は本当に事故に遭いーーー記憶を失ってしまったのだろうか。もしかしたら黒谷はなんらかの方法で…憂の記憶を意図的に消したのではないだろうかーーーー
俺の頭に浮かんだ疑念は消える事なく、俺は黒谷への疑念を持ったまま健太と共に飛行機に乗り込んだ。
飛行機に乗る時は雨が降っていたというのに、雲の上は俺の心とは真逆の快晴だった。
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