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俺達は食に関する質問を何度か投げかけ合い、ブッフェコーナーを一周して席に着いた。
昔から変わらない答えーーー昔から知ってる質問のやり取りを、あたかも今初めて出会ったようにする憂と俺はなんだか奇妙だった。
でも分かりきっているはずの会話を繰り返すうちに、それは俺の中で不思議と居心地が悪いものではなくなっていた。
むしろーーーこうやって、嘘でも初対面として憂と会話が出来るのはなんだか心地よかった。
「美味しいです!」
ローストビーフを一口食べた憂はそう告げ、横に座る駒場さんの顔を見た。
駒場さんも頷き、俺と東堂さんの方へ顔を向けた。
「本当に美味しいです…
お肉も柔らかいし、ワインがあればもっと最高でしょうね」
駒場さんは残念そうに言い、憂も横で小さく笑った。東堂さんが2人にワインを勧めたのだが、2人は帰ってからも仕事があるからと言って今日はアルコールは遠慮すると言った。
だから今俺達4人のグラスにはワインではなくて、ノンアルコールワインが入っている。
「ノンアルですけどーーーこれもすごく濃厚ですね。味が濃いのにまろやかでーーー本物のワインみたい」
「ね!ノンアルのワインなんてぶどうジュースだろうと思ってたけどーーーぶどうジュースとは、全然別物だよね」
憂と駒場さんはそう言って笑い、俺と東堂さんにワイン造りの話を振って来る。
東堂さんは憂と駒場さんがしてくる質問に答え、ワイン造りの流れやふどう畑のこだわりなどをざっと説明する。俺は聞かれれば話す程度にとどめ、少しでも不自然にならないように食事をし、なるべくスマートに振る舞った。
憂は大きな目を興味深そうに見開き、俺と東堂さんの顔を交互に見て、うんうんと頷きながら話を聞いていた。
ーーーーなんだか憂の態度があまりに自然で…本当に初めて会ったような錯覚さえしてくる。
付き合っていた頃はもっと派手だったし、良い意味でも悪い意味でも子供っぽかったーーー
なのにまさか憂がUryu.なんて大企業で働いて、こんなしっかりとした…大人の女性になってるなんて予想外だった。
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