決着

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決着

 「そろそろ来る頃合いだと思ったよ」  「やっと見つけた。3か月探した甲斐があった」  羅雪は兵器開発の本部に来ていた。そこには研究者らしき人物がいた。  「良いデータのおかげでようやく完成したよ」  「俺のデータだけじゃ不満か?」  「君のデータは参考にならない。過程を知りたい我々からすればゴールなど一番いらないんだよ」  「2度に渡る戦闘のおかげで”オリジナル”を超えるモデルが完成した」  研究者の後ろにあるカプセルの中で羅雪と同じ容姿をした偽物が眠っている。  「一応聞いておく。なぜここに来た」  「ケジメを取るためだ」  「ケジメ?」  「あぁ。俺という存在のせいでこの国は夢を見過ぎた。その結果、終わりの見えない戦争に引きずり込まれ数百万人を死なせた。俺自身も開発の内容を知らずに首を立ってに振ってしまった。この国をいつまでも自立しない国にしたのは俺だからだ」  「君は責任を買い被り過ぎだ。確かに君の言う通り、君の存在でこの国は領土拡大という夢を見た。だが、それは上の人間が君の力という”利”しか見ていなかったからだ。まともな政治家が3人でもいれば戦争という泥沼にはまることは無かった。君がそこまで責任を負う必要は無い。それに兵器は完成した。これでこの国の夢も実現する。君がケジメを取る必要は無い」  「結局俺の偽物を使うんだろ。”オリジナル”の出番は無くても、俺の偽物にこの国は依存する。俺も生きてる限り他国から”力”を狙われる」  「活躍するのは偽物なんだから問題無いだろう」  「俺もエージェントとして生きてきた身だ。この国が好きだ。だからこそ俺一人に頼らず自分の足で立って歩いてほしい」  「君の言ってることは理解に苦しむ。おしゃべりはこのくらいにして本題に入ろうか」  研究者はカプセルのタッチパネルを操作する。カプセルが開き羅雪の偽物が目を覚ます。  羅雪は刀を左手で構え、戦闘態勢に入る。  「XI-III。改良版か」  「XI-IIとは比べ物にならない。我々の科学力は進化している。あまり舐めない方がいい」  「ご忠告どうも」  XI-IIIの構えは本物と同じ。細部に至るところまで完璧に作っている。  羅雪自身もこの前のXI-IIとの戦いとは違う高揚感を味わっていた。長年戦場で生きた羅雪だが自分より強い敵は世界中を探してもいなかった。ゆえに任務が退屈であると感じていた。強敵と戦えることに気分が高ぶっている。  戦闘を生業とし、それしかやってこなかった羅雪には道理の感情であった。    「”オリジナル”のお手並み拝見といこうか」  偽物が刀を振り上げ全速力で羅雪に向かっていく。  羅雪は刀で攻撃を受け止める。相手の胴体に蹴りを入れて吹っ飛ばす。  偽物は吹っ飛ばされている間に態勢を立て直し、印を結んでいた。右手の親指と薬指をくっつけ輪を作る。  次の瞬間には輪から光の筋が羅雪に向かって伸びた。  羅雪は右手を上げ左手を垂らして光を受け止める。光は羅雪の数㎝前で止まり見えない壁に阻まれた。  羅雪は左右の薬指と小指を曲げて絡ませ中指を立てる。すると地面に、円状に紋様が刻まれた。  円内に光が降り注ぎ、中にいた偽物はまともに喰らわなかったものの左腕を消失した。  初めて見る能力に研究者は目を丸くした。羅雪は自分を雇っている国にすら全ての手の内を明かさなかった。  国は羅雪という人間の底を知らずに、兵器開発に取り掛かっていた。  偽物は残された右腕で刀の印を結び、羅雪に向かって振る。だが、一本の腕で結べる印は限られている。  羅雪は余裕で衝撃波を交わし即座に印を結ぶ。小指を親指で押さえ、左右の中指を曲げ合わせる。左右の人差し指と薬指を重ね合わせた。再び地面に、円状に紋様が刻まれた。その範囲内を衝撃波が襲い偽物は刀で抵抗したが最後は押しつぶされ活動を停止した。範囲内にいた研究者も範囲から出る際に右の指を全て失った。  研究者は痛みに悶え、その場にしゃがみこんだ。  「お前らは脇が甘い」  「…………」    「俺という人間が何者かも知らずに、兵器開発に利用しようとした。そして兵器が完成すれば国に雇われている俺を切ろうとした。敗因は俺をなめ過ぎたことだ」    「こんなはずでは……」  「あそこであいつを使い捨てにしたのは失敗だった。あいつ以上に俺を知っている人間はいなかったのにな」  「”利”しか考えないからだ。その”利”を得るためにどんな犠牲が生まれるのか考えもせずに、行動に移した」  「俺一人に全て頼ったツケが来たんだよ」  羅雪は刀を仕舞い研究施設をあとにしようとする。    「君を世界が、見逃すわけがない。君は生きている限り狙われ続ける。こちらについた方が身のためだ」    「上等だ。鬼ごっこでも始めようか。世界が俺を付け狙い、俺はそれを返り討ちにする」  「正気か?」  「根性比べといこうじゃねぇか。どっちの根性が勝つか見ものだぞ」  「根性だと……?」  「お前みたいなやつには理解出来ないだろうな。世の中にはそういうのもあるんだよ。覚えておけ」  「本当にそれでいいのか?」  「あぁ。やってやるさ」  「死にたいらしいな」  「やってみねぇとわかんねぇだろ。まぁ、飽きたら死んでやるよ」  「なんだと……‼」  羅雪はそう言い残し施設をあとした。  ――――――――  「探したぜ。”夜叉”」  「よくここまで来ましたね」  羅雪の前にはスーツの男がいた。二人がいる場所は自然に囲まれたところ。  「お前と積もる話がしたくてな」  「覚えてましたか」  「忘れるわけがないだろ」  「あなたは結局一人全て片付けてしまいましたね」  「利用されて生きてきたんだ。今更、人を頼るなんて出来やしない」  「それもそうですね」  二人の表情は穏やかであった。  「日々忙しなく生きてきましたが自然に囲まれて時間を忘れるというのはいいものです。自然に囲まれるというのは心が安らぎ、落ち着くものですね」  「自然は生命の母だからな。母の元にいて心が安らぐのは道理だろ」  「それもそうですね」  生い茂る緑を眺めながら二人は会話を続ける。  「研究施設が公に晒され、全て廃止になりました。祖国もようやくあなたから自立しましたね」    「俺が存在しなければこんなことにはならなかったし、戦争が起きることも無かったな」  「それは責任を負い過ぎですよ。あなたは、悪くはありません。あなたに依存してきた国の自己責任でしょう」  「それにあなたも国に雇われ、最後は国に反旗を翻した。エージェントという殻を破り新た道を歩み始めた。決して平坦とは言えない茨の道をね」  「確かにな。俺も自立したってところか」  「そうとも言えますね」  「お互い利用され続けた身だ。しばらくは自由にのんびり生きたいものだな」  「それは同感です」  「やけに気が合うな」  「役割が異なっていれば良い中になっていたかもしれませんね」  「そうだな」  二人は自然に囲まれながら悠久ともいえる時を過ごした。
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