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「孝ちゃんのこと、よろしくね」
走り出すと良さんが口火を切る。
「前の彼女さんに俺は会ったことはないんだけど、すてきな人だったみたいね、苦しい時、迷った時にもそばにいてくれて」
静かに語る言葉は、エンジンの音に消えてしまいそうだった。
「ずっと孝ちゃんの胸の奥底にいたのは知ってる。忘れたくないけど忘れそうで怖い、そんな感じだね、ずっと記憶にしがみついて」
だから、肌身離さず指輪を持っていたんだ。
「過去を捨てろとはいわない、ずっと誰かを思い続けるのはいいことだとは思う。でも明日はいやおうなしに来る、それは1日かもしれないし、何千日かもしれない、その長い年月の間中過去に囚われているのはもったいないと思うんだ。だからあかねちゃんが現れてくれてほっとした。孝ちゃんに次の未来があることを教えてくれたから──だから、孝ちゃんをよろしく」
よろしくだなんて、私の方がよろしくしたい。ずっとお世話になりっぱなしだもの。
でも良さんの言葉には頷いていた。孝ちゃんは指輪を彼女さんに返したんだ、それはこの先の未来は私といることを選んでくれたということだよね……私はその孝ちゃんの気持ちに答えたい。
すべて忘れてほしいとは思わない、でも新しく楽しい記憶を、孝ちゃんといっぱい作っていこう。
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