#9 影山邸での初めての週末

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#9 影山邸での初めての週末

翌朝目を覚ましリビングへ、当然のことながら影山さんはソファーで寝ている。ん、私も休日だし、もう少し寝室でおとなしくしていようか。とりあえずトイレで用を済ませて、洗面所でちょっとうがいだけして──と洗面所に行ってあらと思う。シンクの脇に指輪が通されたネックレスが置いてある。こんなこと初めてだ、昨夜は商談もあって寝ぼけて忘れてしまったのか。あるいは私がいなければいつもの定位置なのか──触れてはいけないような気がした、このまま置いておけばいいよね。 触れないけれどまじまじと見てしまう。 シンプルな平打ちタイプ、素材はシルバーかな、ついた細かい傷が過ぎた時の長さを感じさせた。影山さんの彼女さんの愛の長さだ。ネックレスも素朴なあずきチェーン、指輪を下げたいだけだから飾りっけは要らないんだろう。 大切なもの、そう思うと冷たい洗面台にあるのがかわいそうに感じた。ティッシュを二枚取り、一枚でそれを持ち上げ運ぶと、影山さんが眠るソファーの前のローテーブルにティッシュを敷いてそこへ置く。 短い時間でも離れ離れにはしておけない、少しでも近くにあったらいいじゃない、肌身離さず持っているというし。 彼女さんはそう思うよね。
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