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「古いマンションなので、相場から言えばちょっと安めだったんです。場所的には会社にも歩いて行こうと思えば行ける距離がちょうどよくて」
なるほど、確かに。私は歩いて行ける距離がいいと思って野毛にしたもんな、考えることは一緒だ。
じゃあ、また、と副社長たちと別れた。少し歩みを進めると、藤田さんから腕を組み副社長の腕に頭をこすりつけるのが見えた。ああ、藤田さんも副社長が大好きなんだなあ。副社長みたいなハイスペックな人と相思相愛なんて、本当にすごい。
「あかねちゃんは送るよ」
良さんが言ってくれる、断ったけれど、いいからいいからと駐車場に向かってしまうので、私は諦めてついていく。
赤レンガ倉庫脇の駐車場に、その白いボディーは輝いて見えた。わ、この車に乗れるんだ!
「どうぞ」
助手席のドアを開けていざなってくれる、母にもしていた、相当な人数の女性をこの車に乗せてきたのかと想像してしまう。
「そんなには乗せないよ、ナナはよく乗ってるけど」
おお、ナナさんか、恋人なのかな。
「いんや、あいつは仕事のパートナー、おっかない指導員だったし、恋愛感情はゼロ」
へえ、仕事上のパートナー……って、え、私、声に出てた? と確認する前にドアを締められてしまった。
良さんも運転席に乗り込むと、キーを差し込みエンジンを起動させた。重々しいエンジン音が鳴り響く。当然のごとくマニュアル車だ、私は運転できないなあ。
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