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「ご家族の方とはもう会えた?」
誰もいない病室でぼんやりしてると、看護師が廊下から声をかけてくれた。
「はい、さっき…」
愛ちゃんは今、別の場所で家族と一緒に過ごしているはずだ。
「皆さん、あなたに感謝してたわよ。いいボランティアさんと出会えて良かったって。愛さん、あなたと会ってから新しい友達ができたってすごく楽しそうにしてたんですって」
「そうですか……」
「じゃあ、帰る時は顔見せに来てね」
看護師はいつも通り仕事に戻っていった。
寝具が片付けられて、彼女がいた痕跡がなくなってしまったベッドは、ひどく無機質に感じた。
どれくらい経っただろう。
ふと、背後でふわりと空気が揺れる気配があった。
そして
「大丈夫かい?」
軽やかに、彼の声が舞った。
どうしてだか私は、彼がここに来るような気はしていた。
「愛ちゃんはたった一人の友達だったんです。だから大丈夫じゃないです。全然」
でもなぜか、涙は出てこなかった。
すると彼はスッとカスミ草の花束を差し出してきたのだ。
「……愛ちゃんに?」
愛ちゃんは、もういないのに。
けれど彼は「これはきみにだよ」と言った。
「私…?」
「彼女から、きみに」
「え?」
「昨日、きみが花瓶の水を入れ替えにいってる間に頼まれたんだ。きみを元気付けるのが、彼女の願いだった。ちなみにこの花を選んだのは彼女だよ。さあ、受け取って?」
その花束は、カスミ草以外にも小さなピンクの花達が含まれている。
真ん中が黄色い、見たことがあるようなないような花だ。
花束を受け取ると、彼が穏やかに告げる。
「その花はローダンセ。花言葉は ”終わりなき友情” 」
「終わりなき友情……」
たまらず、私は花束を抱きしめた。
愛ちゃん………!
きつく結んだリボンが解けるように、するすると涙が溢れてくる。
ああ、私も友達を想って泣くことができるようになれたんだ。
愛ちゃんのおかげで。
「昨日は俺のことを魔法使いと言ったけれど、きみにとっての魔法使いは、きっと、彼女だったんだろうね。それじゃ、元気で」
そう聞こえたかと思えば、窓も開いてないのにふわっと風が入ってきて、次の瞬間にはもう彼の姿はどこにもなかった。
まるで風に攫われたかのように、消えてしまったのだ。
だけど不思議と、そこまでの驚きはなかった。
だって、なんだかとても魔法使いっぽかったから。
でも彼の言ったように、私にとっての魔法使いは、愛ちゃんだったのかな。
私は頬を伝う涙が友達からの最後の贈り物の上に落ちないように、静かに拭ったのだった。
私こそ、彼女との ”終わりなき友情” を誓いながら………
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