やっと会えた魔法使い

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やっと会えた魔法使い

「え?愛ちゃん、ずっと好きな人がいたの?」 学校の帰りに入院してる友達の見舞いに来ていた私は、思いもよらぬ秘密を打ち明けられた。 「好きっていうよりも、憧れの人、かな?」 「ねえねえどんな人?」 彼女は私が親しくできる唯一と言っていいほどの友達であるにもかかわらず、これまで恋愛話を聞いたことがなかったのだ。 これは興奮せずにはいられない。 いつも優しく大人な彼女は私の興奮にクスリと笑い、その相手とのエピソードを教えてくれた。 「私ね、子供の頃から体が弱かったから、何度も入院したことがあってね。でも、両親は仕事が忙しくて、そうしょっちゅう私に付き添ってはいられなかったの。学校の同級生達も最初はお見舞いに来てくれても、何度も入院してるうちにそれも少なくなっていってね、段々と私一人病室で過ごす時間が長くなっていったの。彼と出会ったのはそんな時よ。偶々(たまたま)どなたかのお見舞いに来ていた彼と廊下ですれ違ったの。彼は可愛らしい花束を持っていてね、私、すれ違いざまに思わず『可愛い…』って言っちゃったのよ。そうしたら彼がくるりと私に振り向いたの。それがはじめての出会いよ」 まるで映画のワンシーンのような光景が浮かんできて、私は素直に「すごい!ロマンチックね」と拍手した。 「それでそれで?その後は?」 「それから、振り向いた彼が私に『これのこと?』って花束を指差してきたの。しかも、『ちょっといる?』なんて訊いてきたものだから、私恥ずかしくなっちゃって……。でも彼は優しい笑顔で花束の中からカスミ草を抜いて私に『はいどうぞ』って」 「え、何それ、本当に映画やドラマみたい!」 「でしょう?しかもその後に彼何て言ったと思う?」 「何なに?」 「『カスミ草の花言葉は ”幸福” だよ。だからきっと、もうすぐ幸福がやって来るはずだよ』って、そう言ったのよ」 「うわぁ………それは出来過ぎだわ」 「何よ出来過ぎって」 「いやだって完璧過ぎない?」 「でもこの話はおれで終わりじゃないの」 「ええ?まだ何かあるの?」 「カスミ草をもらった時、私ってばつい誰も見舞いに来ないとか、ずっと一人だとか余計なことを口走っちゃててね、それを聞いた彼は、なんと次の日から来院した時は必ず私の病室にも立ち寄ってくれるようになったのよ。カスミ草を持ってね」 「何それ、映画っていうより、少女漫画じゃない!」 想像の数倍はキラキラした恋愛話に、私はすっかり魅了されていた。 「で、病室で会っているうちに好きになってたのね?」 ウキウキ気分で尋ねた私に、彼女は「んー、恋愛感情かと言われたら、微妙に違うのよね…」と複雑色をのぞかせた。
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