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朝の六時半。
今日も長い坂を登りきる。
高校へ行く通学路とは正反対の道。
一月上旬ではまだ春の気配は当分先で寒いけれど、それでも大きめのマフラーをしていれば、私に怖いものはない。
雪がはらはらと降ってきたのに気づいたのは今しがた。ふと顔を上げ、白い息が舞い上がった時だ、声がしたのは。
「瀬野」
曇り空から目を背けて前を向くと、彼は登り坂の頂上に立っていた。軽く私に手を振って。
ああ、よかった。今日も会えた。あの声に。
「おはよう、小林くん」
戸惑う顔に気づかれないよううまく装って、ドキドキしている気持ちを心の奥底におしこめた。
「また朝からカフェに行くの?」
「うん」
「本当にコーヒー好きだな」
私は朝からカフェに行くし、コーヒーは好きだ、小林くんへの返答に間違いはない。
でも、違う。
一週間前に駅前にお洒落なカフェができて、私はようやく気づいた。
半年間片思いしていた小林くんの家が登り坂の向こうにあって、私がカフェに向かうこの道と小林くんの通学ルートが交わるということに。
だから、私は学校の通学路を遠回りをする。カフェのためでは、もはや、ない。
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