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次の日の朝。
登り坂を登るか躊躇していた。
『とらないでね、私の彼だから』
会いに行ってはならない気がしていた。
でも私はそもそもカフェに用事があるわけで。
でも小林くんに会いたくて行っているわけで。
俯いて、ため息をついて顔を上げると、坂道の頂上に小林くんが見えた。
小林くんは私を見つけてはっとした。
まずい、と私はくるりと向きを変えて歩きだす。
どくどくと鼓動が鳴る。
「おはよう」
声が聞こえた、すぐに分かった、雪乃の声だって。
振り返る。
坂道の上で、雪乃は小林くんに挨拶をしていた。
小林くんは私を見て、ちらりと雪乃を見た。
雪乃は私に気がついていないようだ。
私は視線をぐるりと変えて学校に向かう。
ああ、本当に付き合ってるんだって、思った。
雪乃の彼氏なのに、とられたと思ってしまった。
私ってなんなの。
何様?
坂道の上にいる彼は遠い世界の人だったんだな。
どくどくと鼓動が鳴る。
早くなる鼓動の分だけ早足になる。
ああ、かっこわるいな私は。
なにもできないまま逃げるなんて。
人の彼氏をとろうとするなんて。
さようならしなきゃいけない。
好きなのにさようならするにはあまりに過酷なことで。
白い息がふわり消えるように、私の恋が終われ、煙みたいに簡単に消えろ、早く、早く。
泣くなんてかっこわるいことは、できたらしたくない。
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