大好きなお兄ちゃん

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 月の出番がやって来た頃、ライラが帰ってきました。継ぎ接ぎだらけの服は、何年分もの汚れが模様みたいに重なっています。 「おかえり兄ちゃん」 「ただいまネリネ、体の具合はどうだ?」 「大丈夫だよ」  ライラは疲れの色一つ出さず、愛情いっぱいに笑いました。  そして、いつものように紙袋からロールパンを二つ出します。次に、右ポケットから姫りんごが……と想像しましたが、今日は出てきませんでした。きっと、お金が足りなかったのでしょう。  ライラは少しだけ大きな方のパンを、ネリネにくれました。 「食べよう」 「ありがとう」  空っぽのお腹が、パンを歓迎します。目があった時、ライラは嬉しそうにネリネを見つめていました。いつも、こんな風に優しい眼差しで、ライラは見つめてくれるのです。  ネリネは知っていました。一緒にご飯を食べるために、夜まで我慢してくれていることを。自分よりお腹が空いているのに、いつも少し大きい方をくれることを。毎日変わらないこのパンが、ライラの努力の結晶であることを。  何度か一緒に町に出た時、教えてもらったことがありました。一日頑張って働いたら、パン二つと姫りんごが買えるんだよ、と。ただ、毎日仕事がある訳じゃないけど、とも。  ゆっくり食べていたつもりが、パンはすぐになくなってしまいました。ライラも同じらしく、パンはすっかり消えていました。まだまだお腹は欲しそうです。でも、幸せでした。 「ごちそうさま、今日も美味しかった! いつもありがとう兄ちゃん」 「ううん。食事も終わったことだし一つ話をしてから寝ようか。さぁ、横になろうネリネ」 「うん、今日の話はなぁに? 兄ちゃん」  ネリネとライラは、二人して体を横にします。冷たい空気が入れないほど、くっついて寄り添うのでした。
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