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魔法のポケット
いつもの世界に戻ってきました。時間を元通りにしたかのように、ライラが紙袋を開けます。
ですが、やっぱり戻ってはいませんでした。手の上に乗せられたのは、パン一つだったのです。姫りんごも出てきません。
「お兄ちゃんは?」
「お腹が空いたから先に食べちゃったよ」
「そうなんだ……」
努力の結晶が、疲れた体に広がっていきます。お腹に吸い込まれそうになりながらも、ゆっくりと時間をかけて味わいました。
そうして全部食べきったとき、やっと心が落ち着くのを感じました。
顔をあげた先、愛しそうにまどろむ目に気付きます。ネリネは少し俯きながらも、ちゃんと謝ることにしました。
「……お兄ちゃん、いつもごめんね。僕、迷惑かけてばっかり」
「え、何を言ってるんだネリネ。そんなことはないよ。僕はネリネが大好きで仕方ないのに……あのさ」
またも優しい声が聞こえました。許すどころか違うと言われて、嬉しさでまた泣きそうになります。
けれど、今度こそ続きを聞かなければと、グッと堪えて顔をあげました。
ライラが右のポケットから何かを出します。姫りんごの席から出てきたのは、小さな透明の小袋でした。丸くて茶色のものが入っていて、袋には文字が書かれています。
読めませんでしたが、それが何かは知っていました。昔、両親がいた頃、一度だけ食べたことがあったからです。味だけじゃなく、その時の驚きや幸せごと覚えていました。
「ビスケットだ! どうしたの?」
「ネリネ、今日誕生日だろ。だからお祝いに買ってきたんだ。ネリネのだから全部食べていいよ」
「…………忘れてた。でも、ビスケットって……」
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