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「魔法っつうのはよ、妄想……じゃねえ、想像、イメージが大事なんだよ。え? 他の授業で聞いたってか。そんだ、先生はみんな言うとるべ。自分の全存在をかけて、イメージすんだ。その為に使うのが魔法具だ。その魔法具を持っていれば、自分が使う魔法をイメージしやすくなる。そんなもんを、この美術の授業で作るんだべ。とりあえず、おめえさんたちがやりたい魔法をイメージできる魔法具を考えてみれ」
そういうと乱土軽石庵は、教室の隅に置いてあったパイプ椅子によっこらしょと座る。
「先生!」
萌が、手を上げる。
「お、何だべ」
「魔法具って、杖とか札とか、マントとかじゃなきゃあ、だめなんすか?」
「おお! ええ質問だ。考えんな、イメージすろ。それが魔法具だ。そのためには、常識に捕らわれたらだめだっぺ。何でもええから自分んが、魔法を使っている所をイメージしてみれ。そんとき何を持っとるか。イメージの中で、おめえさんの持っとる物が魔法具だあ」
それを聞いて、萌は目をつぶり、手足を上げたり下げたりして動かしている。自分が魔法を使ているところを想像しているようだ。
「そだ、そだ。イメージだ。いま、おめえさんは何を持っとる?」
「両掌から魔法で、火球が出てる。何も持ってないです。でも、なんつうか、指のない赤い手袋をしているような……」
「ほう、それじゃ。その手袋が、おめえさんの魔法具だべ。そのイメージをよっくおぼえておけ。それを作るんだべ」
「わ、わかった」
目を開けると萌は、ノートにイメージを描き始めた。
「ほれ、ほかのみんなもイメージして、描いてみろ」
静流は目をつぶるまでもなく、ノートに杖を描き始める。オーケストラ指揮者が持つ指揮棒のような短く細い杖だ。
「音楽のように、流れるような水の魔法を使いたいので、これが私の魔法具です」
「ええでねえの。そんでええ」
「先生! あたいは、こんなんだけど。いいかな?」
奈々が、手を上げる。
「どれ、見せてみ」
ノートには、ピンクと黒のストライプのちゃんちゃんこの絵。
「おめえさん……。これって、何か見たことあるような……」
「だめ、かな?」
「いいや。おめえさんの心が、そう命じるならそれでええ」
「やりい!」
「奈々ちゃんみたいな、服でもいいなら、綺羅愛は絶対これです」
綺羅愛が、乱土軽石庵にノートを見せる。そこには、ナースキャップを被ってフリルのついたエプロンの少女が描かれてある。
「キャップは、まあええとして、エプロンなんぞ、おめえさんは、こしらえることが、できるんかや」
「綺羅愛は、縫物が得意なんで、このぐらいちょちょいのちょいです」
「そっかい。何か美術の授業つうより、家庭科の授業みたいだなや」
「空子ちゃんは、何にしたの?」
ノートをのぞき込む綺羅愛。
「うーん。私は、他の人を助ける補助魔法だから、エネルギーを溜めるイメージで、パワーストーンの首飾りにしたよ」
空子は、ノートを綺羅愛と乱土軽石庵に見せた。小さい水晶玉の首飾りに5つの大きなパワーストーンの玉がついている絵だ。
「よし! ほんじゃあ、材料は特別に清められたもんじゃないと、いかんから。みんなこっちで用意すっぺ。次の時間から、作り始めるべ」
チャイムが鳴り1日の授業が終わった。
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