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午後3時。クラスの生徒が帰った後、マスターは城将家を訪れ、ドアチャイムを押した。
「はい、どちら様でしょうか?」
インターホンから流れる声。歩美さんだ……。緊張するマスター。
「あのう、担任の増田です。空子さんの家庭訪問に来ました」
声が出るだけのインターホンに、頭を下げるマスター。
「少々お待ちくださいね」
すぐに開くドア。空子の母の歩美が顔を出す。
「久しぶりだね。マスター」
「お、お久しぶりです。歩美さん。あ、いや、空子さんのお母さん」
マスターは、直立不動だ。
「あははは、何かおばさんって、呼ばれている気分だよ。さあ、どうぞ」
歩美は、ほほ笑んでマスターを家に招き入れた。座敷の応接間に通されて、座布団に正座するマスター。
「空子を呼んできますね」
歩美が、階段下から2階に向かって、空子を呼んでいる。
マスターは、部屋を見渡した。立ちあがって、窓から、怪しいものがいないか外を見る。十分確認したマスターは、座布団に座りなおした。
座ったまま、静かに目を閉じる。全身の感覚を研ぎ澄まして、盗聴や盗撮をする、使い魔がいないか、感じ取ろうとする。小さなハエやクモを、使い魔とする者もいるからだ。
怪しい気配はない。もっともそのような異変があれば、歩美が見逃すはずはないだろう。目を開けて、フウと息を吐き出すマスター。今から話す内容を、敵に絶対聞かれてはならない……。
「マスター……。こんにちは」
空子が、礼をしながら応接間に現れた。
マスターは、空子を見るなり、真顔で言った。
「空子さん。今回の停学は、不本意で理不尽なことと、感じているでしょうね。その通りです。サイバー組とトラブルになった時、君は何も悪くなかった。奈々さんも同じです。自分の身を護る為に、魔法を使ったのですからね。僕の力不足で、君たちを護れなかった。全くもって申し訳ありませんでした」
頭を下げるマスター。
「マスター、確かに私は、みんなを護りたくて、魔法を使いました。でも、あんなことになるとは、自分でも思いもよらず、マスターが止めてくれなかったら、大変なことになっていました。未熟な私が、悪かったんです」
マスターの前に、ペタンと正座する空子だった。
「そうだよ。空子は、まだまだ未熟なんだから、マスターにしっかり聖杯魔法のコントロール法を習わないと」
歩美が、コーヒーとシュークリームを乗せた盆を、座卓に置いた。
「はい。そのことで、今日はお母さんともども、聞いていただきたい重要な話があって来たんです。これは、決して、学園内では話せない内容なので。僕は、密かに話せる、この機会を待っていました」
座布団に座り直したマスターは、眼鏡を指で上げた。
「それって、学園内では壁に耳あり、障子に目ありってこと?」
コーヒーカップを配りながら歩美は、マスターの顔を見る。
「お母さん、それどういう意味? 学校に障子なんて無いし」
「ことわざだよ。秘密の話をしてても、どこでだれが聞いているか分からないってこと」
一番にコーヒーに口をつけながら、歩美が言った。
「そうです。その点ここなら、話が聞かれる心配もない。いま調べたところ盗聴するような、使い魔もいませんでした」
「何だよマスター、そんなに警戒して……。それほど重要な事なのかい。国家機密みたいだな」
声が自然と小さくなる歩美。
「…………国家機密です」
さらに小さな声でマスターが囁いた。
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