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プロローグ~ジンチュウの呂布①
とある公立の猪口竜神中学校で番を張ってる村上には、秘かに想いを寄せる少女がいた。
名を織田市子という。
今時稀にみる「清く正しく美しく」を体現したような彼女は、当然のように学年の垣根を超えて憧れの的だった。
それでも、誰も市子のことを彼女にしようとしなかったのは、単に高嶺の花というだけではく。シスコンであることでも有名な、かつてこの学校をシメていた伝説の不良の妹君であり、妹の彼氏に求めるそのお方の基準がとても高かった・・・というのもある。
「いつか彼女の兄に認められるくらいの男になり、市子を彼女にする」
村上にもそんな野望は確かにあった。
それはさておき、この村上、今日も不良たちの生態系を維持すべく、まさにこれから近頃生意気になってきたヒヨッ子の二年生を、定番の体育館裏に呼び出し、番長自らタイマンにて、出でんとする杭を打ち、おのが威を示さんとするところであった。
それはぽかぽかとした日差しの暖かい午後、昼休憩の時間だった。
戦の前の腹ごしらえもそこそこに、供の手下を幾人か連れて指定の場所におもむいたのだが、途中、見たこともないほど良い体格をしたジャージの者が、しゃがんで道をふさいでいた。
(ジャージの色からして一年のようだが…)
ジャージの上からでもはっきりと分かる肩や背中の厚みは、ただのぜい肉ではないと思われた。がしかし、その者のまとう気はといえば、いかにものんびりとしたものでパンダのような愛嬌さえあった。
村上 「おい小僧、じゃまだ、どけ」
本当はたいして邪魔なわけじゃなかった。避けて通ろうと思えば通れるくらいのスペースはあった。それでも相手がビビって道を開ける姿が見たかったというのが本音だった。
だが、そいつは聞こえていないのか無視しているのかピクリとも動かない。
手下に命令してムリヤリにでもどいてもらってもいいのだが、たまには自ら威を示し、手下の忠誠心をより強固にするのもいいだろう。なにより自分も気分がいい。まぁそちらの方が主な理由だが、とにかく1年坊なんぞに舐められて黙っているわけにもいかなかった。
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