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村上は少しいら立って、「聞こえねーのか!でくの坊、テメーのことだよ!」と続けた。
しゃがんでいてもわかるくらいに、そいつはデカかったのだ。
するとそいつは「え?おれのこと?」とばかりにすっとぼけた顔でキョトンとしている。だがやがて少し体をひねって「通ってください」というポーズは一応見せたと判断した。
期待していた態度ではないのでなんとなく気に入らないが通ってやることにする。
がしかし、少し意地悪にも大股の蟹股で歩き、半ば蹴らんばかりの歩みを見せたその時、その一年坊が村上の踏み込む足首を掴んだのだ。
(生意気に。コイツやるつもりか・・・?)
そしてゆっくりと立ち上がって見下ろしてきたではないか・・・。
(デ、デカい・・・。178cmあるオレより大きいか?)
だが、ここでビビるようでは番は務まらない。
(彼我の戦力の差も分からんバカか。小学校では無敵だったか知らんが、中学校レベルのケンカの恐ろしさを味わうがいい)
村上 「お前このオレを知らないのか?今からガキを一人シメに行くとこだが、もののついででお前をシメてやってもいいんだぞ」
正直なところ、昼休憩中にケンカ2連戦はきついが上級生にこうも威嚇されてビビらないわけがない。普通ならそうだ。しかもこっちは5人だ。
だが、そいつから帰ってきた言葉は、その場にいる誰もが予想しなかった言葉だった。
ジャージの一年は口をゆがめて一言「この蚊が・・・」と言った。
それは体格に似合わぬハスキーな少年のようなな声だった。
(カ・・・?蚊と言ったのか?この番長であるオレに対して?お前なんかモスキートだという意味か?ちょいとデカいからって調子にのってやがる。こんな声変わりもしてねぇガキに舐められるなんて我慢ならねぇ)
村上 「いいか、お前ら、体の大きさがケンカの強さの決定的条件とは限らないことを今から証明・・・」と、手下にレクチャーしている途中だった。
そいつは何の前触れも脈絡もなく村上の顔の前に拳を突き出していた。
そう、まるでデコピンでもするかのような構えで。
直後、額に鋭い衝撃が走る。
そして、村上の記憶はしばらく飛ぶことになる。
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