プロローグ~ジンチュウの呂布①

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 そして、村上の記憶はしばらく飛ぶことになる。  その空白の時間について、手下Aはこう語る。 「そう、あれはなんて言ったらいいのか、実際にそんなシーンを生で見たことはないんだが、まるで、村上さんがスナイパーにでも撃たれたように、吹っ飛んだんだ。 そのあとは、ワイヤーアクションのカンフー映画よろしく地面をズザザーって滑って行って、さらにゴロゴロと転がってプールの前の植え込みに突っ込んでいったんだ。」  みんなもれなくあっけにとられて、目の前で起こっていることに頭が追い付かず、呆けたままただ見てるしかできなかった。  そうやって何秒経ったろう、しばらくしてうめき声をあげながら立ち上がろうとした村上だったが、すぐにコロンとまたこけた。       脳が揺らされ、平衡感覚を失ってるのだ。  しかし村上は腐っても番長、それなりの意地がある。 足元はおぼつかなかったが、なんとか元の位置に戻ってこようとしていた。 だが村上の意思とは関係なくヨロヨロと進んだその先は、行こうと思っていた方向とは反対のバレーコートだった。  何ということか、そう、あれは不運な事故だった。 そのバレーコートでは、今まさにわれらがアイドル織田市子姫がサーブを打たんとするところだったのだ。  目の回った村上がグルグルと回る視界の中、また転んでしまった場所は、市子の後方、その足元だった。  しかし、そんな村上に気が付かずサーブを撃つ市子は、ふいにスカートを後ろから引っ張られる感覚に襲われ、振り向けば、なんと、男子生徒がスカートの中に頭を突っ込んでもぞもぞとうごめいているではないか・・・!  直後、市子が校庭中に響き渡らせた悲鳴と共に、スカートによって目隠しされたまましたたかに頭をたたかれて村上がK.O.されたことは、皆の知ることとなり、番長としての村上の格は地に落ち、決闘の場に現れず逃げたと二年にはバカにされ、結局その番長の座から失脚することとなる。  その一部始終をアホ面ひっさげたまま、ただ見ているしかできなかった手下Aだったが、開けっ放しにした口からよだれが垂れていたことに気づき、はっと我に返って辺りを見回したが、すでにそこにジャージ姿の一年は見当たらなかったという。
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