恋情オンライン

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 もっとキラキラした青春を送ってみたい、という(かす)かな希望はある。部活に熱中したり、学校行事をクラスメイトとやり遂げたり、彼女を作ってデートしたり……高校生の可能性は無限大だ。  夏の放課後を知らせる退屈なチャイム。自分と同じ制服を着てエンジョイしている奴らを横目に、汗を(ぬぐ)いながらそそくさと校門を出る。帰宅部な上に友達もいない僕には、無縁の世界。もちろん彼女なんていやしない。もうすぐ夏休みだというのに早くも乗り遅れている、僕は冴えないモブキャラだ。  だけど、そんな僕でも楽しみはある。帰宅し、制服を脱ぎ捨てて向かう先は、いつもの定位置。自分の部屋に置かれた、安物のゲーミングチェアだ。  パソコンの電源を入れ、マイク付きヘッドホンを自分の顔にセットする。今日も至福の時間がやってきた。 「──ただいま、僕の世界」  そう呟いて、オンラインゲーム"フィールドスナイプ"を起動する。二チームに分かれた複数のプレイヤーが一つのフィールドに放り込まれ、様々な武器を使って戦う。僕が最近ハマっているバトルロイヤルゲームだ。 「あ、ハルト君! また同じチームになったね! 心強いよ〜」 「こちらこそだよ! モモちゃんと一緒のチームで嬉しい──」  マイクのスイッチをオンにして会話を始める。最近よくオンラインで一緒になるプレイヤー、モモちゃん。  もちろん顔は知らない。向こうも僕の顔を知らない。だけど、彼女と話すことが、彼女の声を聞くことが──退屈な毎日を(うるお)す密かなオアシスになっていた。透き通った可愛らしい声。多分、同い年くらいかな。  コントローラーを握る指が、(はや)る気持ちを抑えられずにいる。共闘でゲームを進めながら、自分だけの青春を謳歌(おうか)していた。
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