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「すごい銃撃戦だね……しばらくこっちに隠れよっか」
「そうだね……落ち着くまで待とう」
ゲームが終盤にさしかかる中、近くで激しいバトルが始まってしまった。すぐ傍にあった建物に慌てて避難。ここなら、しばらく敵に見つかることはないだろう。
物陰に隠れながら戦況を見守る。すると──少し寂しげな声で、モモちゃんが話し出した。
「私さ──オンラインゲームくらいしか楽しみが無いんだよね」
「えっ?」
「私のパパ、転勤ばっかりで……友達全然作れないんだよね。今の高校もやっと馴染めてきたのに、また転校するかもしれなくて……ほんと、嫌になっちゃうよ」
「そう、だったんだ──」
何て返せばいいか、言葉に詰まってしまった。
家庭の事情とは言え、次々と住む場所が変わってしまうのは辛いだろう。転校したことのない僕には分からない寂しさ。聞いているこっちも少し胸が痛かった。
「あぁ、ごめんね! こんな話つまんないよね……ハルト君はさ、普段どんな学校生活送ってるの?」
「僕? う〜ん、僕もオンラインゲームばっかりだからなぁ──リア充みたいな学校生活は憧れるけどね」
「へぇ〜、じゃあ女の子とは全然関わり無いんだ?」
「そうだね〜会話すらしないよ」
「じゃあ好きな人とかもいないの?」
「えっ──」
絶え間無く動かしていた指がピタッと止まる。
不意に投げ込まれた質問に戸惑い、襲いかかるドキドキ。心臓の鼓動が早くなるのが、自分でもよく分かった。
「ま、まぁ……いないかな……」
「ふふっ、そうなんだね」
可愛らしい声で笑うモモちゃん。
言えるわけがない。顔も知らない君が──片想いの相手だなんて。
「と、とりあえず! 建物の中、探索しよう! 何かアイテムがあるかも……」
「そうだね、探そう探そう」
そう提案して、無理やり指を動かし始まる。
照れを隠すのに必死だった。この気持ち、声でバレたりしてないよね……。
*
「私達ってさ、住んでる場所って近いのかな?」
「どうだろう……モモちゃんはどの辺に住んでるの?」
「私はね、海が見える町に住んでるの! 近くに"サンライズ灯台"っていう灯台があってね。日の出がすごく綺麗なんだよ」
建物内を探索しながら会話する。
サンライズ灯台はたしか、隣の県にある観光名所。ニュースでもたまに目にする、その名の通り日の出が綺麗な場所だ。ただ、ここからはお世辞にも近いとは言えない。
もっと近所だったら良かったな……そう思った矢先。モモちゃんからまたしても、心をくすぐる言葉が飛び出す。
「もうすぐ夏休みでしょ? 海もすごく綺麗だし、良かったら会いに来てほしいな〜、なんて」
「えっ──」
胸が高鳴った。想像もしていなかった言葉だ。
会いたい。モモちゃんに──好きな人に会いたい。その気持ちが、一瞬の内に沸き上がってきた。
「あ、でも本当に良かったらでいいから! 一緒に遊ぶような友達いなくて、ハルト君なら仲良くなれそうだから会いたいなって勝手に思っただけ! 気持ち悪いよね、やっぱり忘れて……」
「ううん、嬉しいよ! 僕もモモちゃんに会いたい! 僕の住んでる所はね──」
そう言いかけた次の瞬間。激しい爆発音が二人を包み込んだ。
「うわぁ!」
隠れていた建物に、手榴弾が投げ込まれた。あっという間に瓦礫に埋もれてしまい、二人同時にゲームオーバー。もちろん会話の機能も途切れてしまった。
「くそぉ……一番良いとこで終わっちゃった」
それから何度もオンライン対戦に参加したけど、モモちゃんとは遭遇できず。夜も遅くなり、会話の続きをするのは叶わなかった。
モモちゃんに会いたい。その気持ちだけが、ふつふつと募って離れなかった。
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