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ティータイム
「どうぞ。粗末な物ですが」
「すまない。気を遣わせたな」
一応客人なのでお茶を出してから自分も席につく。
あの衝撃の一言の後、リリアは取り敢えずこの男を中へと招き入れた。
アルバートの真意はさておいて、居場所がバレてしまった以上何の情報も得ることもなく彼を帰すのは勿体ないと考えたのだ。ここは国の最果ての地。近くの村に噂が回って来ることはあっても正確な情報を得るのは難しい。
「珍しい香りだな」
「意外です。紅茶にお詳しいのですね」
―――不思議だわ。彼が持つとティーカップが一回り小さく見える
「君が、紅茶好きだと聞いたから」
「………っ、はあ!?」
「うまいな、これ」
何事もなかったように紅茶を味わう彼に殺意すら覚えた。
先程のような初心な表情を見せてくれたのなら此方もそれなりの返答ができるのに、すました顔で言われてしまっては反抗したくなってしまう。
「『貴方の感情を理解しようとするのは暗闇で自分の影を探すようなものですね』
いつだったが、私が貴方にそう言ったのを覚えていますか」
「ああ」
「更にその後、私はこう付け加えました。
『貴方の行動を予測するのは、太陽の進む先を辿るようなものだ』と」
「言っていたな」
「今も同じですわ。
貴女が何を考えているのかはさっぱり分かりませんが、貴方のやりたいことは手に取るように分かります!」
無礼だと思われようが構わない!そんな勢いでリリアは目の前の男に人差し指を突き付けた。
「貴方さては、適当な理由を付けて私の側に居座り、堂々と監視するつもりですね!」
散々頭を悩ませ様々な可能性を考えたがこれが最も腑に落ちる答えだった。
自尊心の高い皇家の者達はリリアが今も尚皇太子殿下を愛していると思っている。そうでなければリリアに対して現聖女の教育係になるよう命じ、更には『神殿から所属を移し皇家に仕えるのであれば側室として迎える』なんてくだらない提案ができる筈がないだろう。
しかもこの提案、質の悪いことに断ろうが受け入れようが皇家と神殿の間の確執が悪化するのが目に見えていた。
そんな経緯で逃亡を図ったわけだが彼がそれを知る由もなく、次代の聖女への引き継ぎを放置した挙げ句神から授かった力を国に捧げるという義務まで怠ったリリアに腹を立てていてもおかしくない。
いくら非人道的なことを好まない生真面目な男であってもそういった理由があれば偽りの愛くらい囁きそうだ。
「…………」
「どうして何も言わないんですか?」
意外にも物音一つたてずにティーカップを置いたアルバートは同意も反論もせずに静かに此方を見つめている。彼が全身全霊で憤怒しているところは勿論想像できないが、かといって一方的に責め立てられているのを是としているのも違和感がある。
「ちょっと!団長様!何か言うことはないんですか!?」
「………ずっと言おうと思っていたんだが」
「はい、何ですか」
「声を上げても可愛いだけだから、あまり怒らないでくれ」
「………は?」
この男は真顔で一体何をほざいているの?
「任務の時もそうだが、君はよく俺に怒るだろう?その姿がその………リスみたいであまりに可愛くて、困る」
「はあーーーー!?」
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