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煽 動
鰐の民衆を従えて、君は灼熱の先頭で高々と拳を突き上げる
鰐が鰐の尻尾を噛み、マグマのうねりで蛇行につぐ、蛇行か?
その先頭、誇らしげ
君は赤く、赤く、ますます赤く輝いて見える
ずるいよ、昨日まで僕にビスケットをねだっていた、くせに
他愛もない眩暈を感じながら拳を突き上げそうになるけれど
僕はやっぱり穴の開いた嫉妬のポケットに手を突っこむ
いつもビスケットが落ちてしまう穴あきの左ポケット
いい加減にしやがれ!
黄色い鉄槌が描かれた赤旗が欲しいから
崇高な絶望と人工甘味料の平等が欲しいから
ビスケットよりも黒パンが欲しいから
赤い広場でそんなに笛を吹くんだろ?
ずるいよ
昨日まで僕と手をつなぎたがってた、くせに
君なんか、パイドパイプを吹きながら
鰐たちと一緒にルビコンの河に落ちちゃえばいいんだ
でも、変わってしまったのは君ではなく
きっとポケットの穴の大きさだったんだね
僕の左ポケットからは何もかもが落ちてしまうんだ
ビスケットも
嫉妬も
二人でつくったメレンゲの想い出も
あじけない思想もね
この世紀は、すでに真冬
天蓋を覆う、いまいましい二酸化炭素
残高照会の狂喜と慟哭だけがデモクラート
僕は雷鳥に乗り
世界の乾燥を救いにいきたかったのに
いまはハイビジョンの前で、色盲のハーシーズ中毒
鰐のくせに蛇のまねして行進などするから
民衆はすっかり散りぢりになって
レーニン、君は銅像も倒された独りぼっち中毒
バラ色だけが失われた極彩色に煌めく永遠の渚で
今度、待ちあわせしようか
そのイデオロギーというポケットから両手を出し
赤と黒、煉獄のチェッカースをしようよ
永遠に君の宿敵、ケレンスキーより
─ FIN ─
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