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父を頼ろうなんて思った事すらなかった。 なるほど、親の権力はこう言う時に使うものなんだと一つ勉強になった。 どんな方法で頼もうか考えながら缶ビールに手を伸ばせば、その缶を横から奪われる。 「姉さん?疲れてる時にお酒はやめなよ」 「疲れてるから飲みたいんだけど」 だーめっと非情にもビールを冷蔵庫に戻され、代わりにお茶が渡された。 そのまま波留は私の横に腰掛ける。 一緒に暮らし始めてこういう時間が増えた。 何をするでもない、いわゆる家族団欒の時間だが、実家では馴染みがなさすぎて未だに違和感を覚える。 「波留…もうちょっと向こうに寄って?」 「なんで?」 なんでもクソも、ソファ広いんだから端と端使えばよくない?と思ったけれど、言ったところでどうせまた「なんで?」と言われるのは目に見えているので諦めて口を噤む。 反論しない私に満足した波留は、甘えるように私の肩に寄りかかりテレビを眺めている。 テレビ、と言っても波留が見るのはニュースか情報番組だ。 「姉さん、チャンネル変えていい?」 「いいよ」 波留は、1日に何回姉さんと言うんだろう、と言う程よく私を呼ぶ。 昔、母がまだ生きていた頃、波留は私を名前で呼んでいた。 いつから『姉さん』と呼ばれるようになったのか覚えていない。 もう随分名前を呼ばれてないな、と思ったところでふと疑問が湧いた。
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