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「波留」
「何?」
「すごく馬鹿なこと聞いていい?」
そういうと、波留は目線だけ上に上げて、ん?と困った顔をした。
「なんか怖いんだけど、何?」
「あのさ…波留って私の名前覚えてる?」
「ん???」
波留は困惑いっぱいの表情になり、肩から頭を持ち上げ私と向き合った。
「えっと、姉さん。それは何かのジョーク?」
「まさか。ねぇ、一回呼んでみて」
「え…どうして?」
「いいじゃん」
「…なんで?」
言い淀む波留に、まさか本当に名前を忘れたのかとショックをうける。
「波留…正直に言って?…わ、忘れたの?」
大事な姉さんとか言っていたくせに。と裏切られた気持ちで憎たらしくなる。
すると、波留が小さく「忘れるわけがないよ」と呟いて私の手を握った。
波留は視線を伏せていて、長いまつ毛に隠れて表情は見えない。
微かに垣間見えた唇がゆっくりと「ゆきほ」と動いた。
そうだった。
昔の波留は私をこんな風に呼んでた、と懐かしさと一緒に切なさがやってくる。
「姉さん」
すぐに呼び名を戻した波留は、顔を上げて私をじっと見つめると、握っていた手を口元に引き寄せて軽く唇を押し当てた。
「えっ、ちょっと?何してんの」
慌てて手を引こうとしたが、強い力で波留が拒むから叶わない。
触れたまま、その唇は手の甲を滑り、たまに食むようにキスを落とし、人差し指の爪先にたどり着いた。
そして躊躇いなく口を開き、指を口に含んで第一関節辺りを噛まれた。
「いたっ!は、波留っ!やめて!」
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