さよなら、サンクチュアリ【完】

１

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着いてすぐに向かったダイニング。
お手伝いさんがアッサムティーにミルクを注ぐのを眺めながら声をかける。

「まさか波留が同じ大学に入るとは思わなかった」

会話なんて求めてないが無言も気まずい。嫌味にならないよう極力明るい声色にした。

「父さんの母校だから」

ね？と上座の父に相槌を求める波留の出来が、飛び抜けて良い事なんて誰でも知っている。

だからこそ疑問に思う。
日本の最高学府にだって余裕で入れる弟が、有名校と言えなぜ私立に。

忌々しさを隠すようにザッハトルテを口に運ぶ。
胸がムカムカして食欲はなかったが、中のアプリコットジャムがいい塩梅で食べ始めると不思議と食が進んだ。昔馴染みのお手伝いさんは、滅多に実家に寄り付かない私の好みも熟知している。

「ところで、今日は何の御用で？」

緊張がバレないよう紅茶を啜り問いかけたが、先程から一言も発さない父はやはり答えてくれず、態とらしくため息を溢した。

それ一つにさえ、出来損ないの私への侮蔑が含まれていて苛立ちが迫り上がってくる。

「あの、お父さん、」

「姉さんにお願いがあってさ」

私を遮る柔和な声。

この重い空気なんて微塵も気にしない朗らかさが、尚私の気に触るのを本人は気付いていないのだろう。