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「雪穂さん、お待ちしておりました」
父の会社のエントランスで私を待っていたのは秘書の氷見さんだ。
父の側で長く仕えている彼は、私達姉弟の事を昔から知っている。
「お待たせしてすみません」
「お久しぶりですね。素敵な女性になっていて、どこのお嬢様かと思いましたよ」
こんな事を真顔で言うので、失礼な事とは思いつつ、私は昔から彼が少し苦手だった。
何をさせてもそつが無く、本心が分からなくて不気味なのが波留にちょっと似ている。
「社長は18時から1時間程度お時間があります」
親子揃っての時間は久しぶりでしょう?と声を掛けられ、確かに春休み以来だなと思い出す。
父との面会は氷見さんを通して取ってもらった。
実の父にアポを取るなんてどんな親子関係だよと思うけれど、私達家族はずっとそうやって生きてきた。
母がいた頃はもう少し会話もあった気がするが、昔すぎて殆ど覚えていない。
いつもなら絶対に自分から足を運ぶはずのない場所だが、目的があるだけで幾分足取りは軽かった。
「社長、雪穂さんがいらっしゃいました」
最上階のドアをコンコンと規則的に叩き、返事を待ってから氷見さんは扉を開け「ごゆっくり」と私を中へ誘導した。
部屋の奥では仏頂面の父がマネジメントチェアに深々と腰掛けていて、肘置きに置いた腕を顔の前で組み、私を頭からつま先まで一瞥し「何の用だ?」と言った。
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