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無口な父の、一言一言は思ったよりも重い。
答えを間違えてはいけないような緊張感がありゴクリと唾を飲み込んだ。
「あの…まずはこれ、どうぞ」
おずおずと手土産を差し出せば、中を確認する事もなくデスクの端に置いた。
少しでも手が当たれば落ちてしまいそうな場所で、父の中で私の価値はその程度なのだと落ち込む。
「それで、用件は」
挨拶一つなく本題に入る父に苛つくが、機嫌を損ねないように怒りを押し込めて、今までの事を掻い摘んで説明した。
「つまり私に、お前の友達の手助けをしろ、と言う事だな?」
「…はい。そうして頂けると助かります。せめて警察に掛け合って頂けると、」
嬉しいです。そう言おうとした声は冷たい言葉に遮られた。
「話にならないな」
「え?」
「用件はそれだけか」
「ま、待って」
私の制止も聞かず、父は机の上のボタンを押して氷見さんを呼んだ。
「雪穂が帰る」
「待ってください!まだ話は終わってないです!」
父の冷えた視線が一瞬私を向き、興味なさそうに机の上の書類に戻った。
「お前は、私の時間を何だと思っている。学生のお遊びに付き合ってる暇はない」
「お遊びなんかじゃ!犯罪に巻き込まれたんです!!警察に掛け合うだけでもいいので、お願いします!」
氷見さんが小さく「雪穂さん」と腕を掴むのを振り払い父の方へ駆け寄る。
「お願いします!大事な友達なんです!」
「それで?」
「それでって…」
「お前の『大事な』友達を助けたとして、それは一体幾らになる?」
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