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「…は、、い?」
父が何を言っているのか分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
「金になるかと聞いてるんだ」
「なに、を…」
「一銭にもならない事に時間も金も人脈も使えないな」
愕然として父の膝の前に座り込む。
俯くと汚れ一つない綺麗な革靴が目に入り、あまりの悔しさで涙が滲んだ。
縋るように、その艶々と光る父の靴を両手で掴む。
「…お願いします…大事な友達なんです」
氷見さんは私の両肩を掴み父から引き剥がそうとしたが、それを拒んで体を捩って振り払う。
「雪穂さん、膝が痛んでしまいますよ。さあ立ち上がって」
気遣いの言葉なんてどうでも良かった。
怪我したって別に構わなかった。
汚くても、惨めでも、何でも良かった。
ただ、父が、私を思って友達を助けてくれたなら。
「…お、父さんっ!お父さんってば!…お願いっ!助けてよ!!もう二度と反抗しないから!なんでも言う事聞くから!お願い!!」
お願いだから、と縋る私の手を蹴るよう払い除け、父は大きく息を吐いた。
「お前は、波留言われてここに来たんだろう?」
「…は、い?…そう、ですけど…」
それが今、何の関係があるの?
なんでこんな時ですら波留を気にするの?
「……諦めなさい。どんなに駄々を捏ねても無駄だ」
一瞬哀れみのような眼差しをした父が「意味のない事に時間を使うのはよしなさい」と、首を横に振った。
願っても縋っても何一つ叶えてくれないのか。
こんな人が父親なのが恥ずかしかった。
恥ずかしくて、憎くて、惨めで、…寂しかった。
父は私を愛してない。
それがありありと伝わって、床に額を擦り付けるように項垂れる。
「氷見、雪穂を送りなさい」
その言葉を最後に、父はもう私を見ることすらなかった。
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