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部屋の扉を乱暴に開け、ベッドに伸し掛かるみたいにうつ伏せになり布団に顔を埋める。
声を押し殺して泣いていると、閉まりきらず中途半端に開いたドアから波留が「姉さん?」と声を掛けてきた。
「来ないでっ」
波留の顔を見ないまま、顔を更に布団に押し当てる。
うぅ、とくぐもった嗚咽を洩らしていると、波留がベッドを小さく軋ませて縁に腰掛けた。
「来ないでって言ったでしょ!」
「…姉さん、かわいそうに」
波留が私の髪を梳くように撫でる。
その手を退かそうと頭を横に振ると、暗闇の中で波留と目があった気がした。
リビングから漏れる光のせいで逆光になり表情まではわからない。
そして、その姿を見たとき、思った。
波留のお願いなら父は聞いたのだろうか、と。
見当違いだと分かっても波留への憎しみが湧き出る。
波留は悪くないのに、嫌悪感が体にぶわりと広がった。
なんで波留ばかりなの?
「はる…」
怒り、悔しさ、悲しさ。
唇が震えているのが、何のせいなのか分からなかった。
薄暗さに慣れた目がはっきりと波留を捉え、一縷の望みを託して口を開く。
「波留…お願い…波留からも頼んでくれない?」
そうすれば父は動いてくれるかもと淡い期待が胸を過る。
「うーん。…僕が頼む理由ある?」
同じだと思うけど、そう言って形のいい唇が微かに弧を描いた。
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