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「どうして美鳥さんの情報がなかったと思う?」と波留が腕の力を強めながら言う。 「どういう意味?」 「僕も少し考えたんだよね。あの街でそんな事できる人間って、誰だと思う?」 「何が言いたいの?」 「つまりさ、人間一人の情報を全部消せるのなんてヤクザとか危ない世界の人間達だけじゃない?」 「そんな人に、関わりあるわけないじゃん」 「そうなのかな?もしかしたら危険な事に関わってたのかもよ?」 波留が私の頬に猫の様な仕草で頬擦りをする。 「ねぇ、美鳥さんは本当に清廉潔白なのかな」 「当たり前…に、決まって、る…」 波留はふふ、と小さく笑い、私の肩に顔を埋めた。 唇でなぞりながら徐々に上に這っていき、首の付け根辿り着くと強めに吸い付く。 ちくりと小さく痛んだ。 「でも、誰もそれを証明できなかったでしょ?」 確信をもった瞳で波留が見つめるから、私は何もいえず呆けたまま。 「僕は姉さんが傷つかないか心配なんだ」と波留は眉を下げた。 今更そんな表情をしても、どうせ心の中で笑ってるに違いないのに。 なのに、波留を拒絶しようとした所で、私には嘘でも心配してくれる家族が波留だけだという事実を思い出して苦しくなった。 「波留…」 「うん、なーに?」 「波留、…一人にしないで」 「うん。僕だけは(・・・)、ずっと側にいるよ」 波留、波留、波留、と何度名前を呼んだだろう。 波留の腕に包まれてその温もりを感じ、憎しみと依存が反発し合いながら、最終的に私は波留が側にいる事を許してしまった。 私の弟。美しい弟。 この世で一番憎くて、唯一の拠り所。 大嫌いな、波留。
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