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* 「あ、やべ」 そのカーブを曲がろうとした時思い浮かんだのはそんな一言。 自分が長生きするタイプだと思った事はなかったが、まさか、こんな場所で、こんな若さで死ぬかもと考えた事もなかった。 9月。 まだ残暑は厳しく、帰省から戻ってすぐの事だった。 実家が田舎にある自分にとって、バイクとはカッコいい物でも何でもなく、単なる移動手段でしかない。 地元でのノリでこっちでも乗っていると、友達はみんな心配してきた。 特に雪穂はバイクに乗る知り合いなんていないから、一度後ろに乗せた時、イタズラ心でちょっとスピードを出したら大泣き。 あんな子供みたいに泣きじゃくる雪穂を見たのは初めてだった。 彼女でも何でもないのに「危ないからもう乗らないで!!」なんて言っていて、それを少し嬉しく思ったのは内緒だ。 その忠告を守れば良かったと、今日ほど思ったことはない。 死を目前に分かったことが2つある。 1つめ。 人間は急に死に直面した時は、走馬灯なんて走らず、「あ、死んだわ」くらいの事しか考えれないと言う事。 2つめ。 それでも一瞬、最後に、大事な人の顔が思い浮かぶんだと言う事。 悲しいのは、その感情に気づいたのが死ぬ直前だという事と、相手はオレのことを別に何とも思ってないという事。 だけど、あいつはきっと泣くんだろうな。 悲しませたくなかったのに。
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