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「楓!!!!」
パチリと目を開けると見慣れない天井が映った。
「…あれ?死んで、ない…」
全然状況がわからなくて、取り敢えず上体を上げようと腕に力を込めるが身体中が痛くて、どこも自由に動かせない。
目線だけ動かすと見慣れた母がいて、その瞳はすぐに潤んでハンカチを顔に押し当てた。
「楓っ、本当にお前は!!なんて馬鹿な事を…」
どうやら自分は生き延びたらしい。
我ながら悪運が強い。
首都高の出口付近の大きなカーブ。
自分でも死んだと思うような事故で、こうやって生き延びたのは奇跡だと、医師も言った。
事故から1週間ICUにいて、今日やっと一般病棟に移されたと。
そして。
「怪我の状態が酷く、両足を切断しました」
主治医がはっきりと伝えてくる。
「そのままでは壊死する可能性が高く、そのリスクを下げる為にも、」
「え?冗談ですよね?さっきから足の先も痒いんですけど」
医師の言葉を遮るオレの言葉を聞いて、母がまたハンカチで顔を覆った。
「…それは幻肢痛といって、」
「…え?」
嘘に決まってる。
だってこんなに痒いのに。感覚もあるのに。
でも、確かに自分でも酷い事故だと思ったのだ。
生きてるだけ、奇跡なのかもしれない。
不思議とそこまで実感がなく、悲しみもあまり湧いて来なかった。
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