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「伊地知楓さん」 声を掛けて来たのはいつか見た警察のうちの一人。 雪穂の担当ではなく、もう1人のあまり発言をしなかった方。 「あれ?…お久しぶりです」 「少しお話を伺いたいのですが」 「どーせ話しても意味ないじゃないですか」 暗に美鳥の事を仄めかすと、その警察はムッとした表情で「あれには訳がっ」と言った。 「…は?訳?」 「あ、いえ」 「こら、楓!警察の方になんて態度を取ってるの!」 母がオレの頭を軽く叩いて「不肖の息子がすみません」とぺこぺこ警官に頭を下げる。 警官は軽く咳払いをしてから「では、お話を」と気まずそうに目線を逸らした。 一瞬動揺していたのは、気のせいじゃないだろう。 何となく感じる違和感に、でも、うまく言葉に出来る程でもなく、気づかないフリをするしかなかった。 「それで、楓さんは単独事故という事ですが、その…えっと…」 「楓!あんた…」 母の目から、また大粒の涙が溢れた。 「じ、、自殺、しようとしたんでしょ?」 思わぬセリフに飛びあがろうと体を動かすと、全身が痺れるように痛んだ。 「いってぇー!」 母と警察の2人が慌てて体を支えて、伸びて来た警察の手をかろうじて動いた指先で掴む。 「は?なんでそう言う話になってるんですか?」 「違うのですか?」 警察と母がお互いに顔を見合わせた。 「事故現場にはブレーキ痕が全くなく…それに、借りているマンションに解約の連絡があったそうですが」 状況を鑑みて自殺未遂と判断しました、と。 「は?マンションの解約?」 「…身に覚えがないですか?」 「全く」 一体何がどうなってるんだ? ハンドブレーキは確かに引いたはずだったし、マンションなんて解約するはずもない。 おかしいなイタズラか?と警察は頭を掻いた。 一体何が起こったんだ? 底しれない不快感が有るはずのない足元からぞわぞわと広がった。
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