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数日経って、ようやく一般の面会も出来るようになると、すぐに雪穂と湯井が来てくれて、ハカセも連絡をくれた。
「楓…バカ」
開口一番、雪穂は口をへの字に曲げて拳を震わせている。
「だから乗らないでって、言ったのに…」
一歩近づいて、そっと包帯で巻かれた腕を「痛かったでしょ?」と摩り、オレを見て潤ませた瞳が瞬きをした瞬間、いつかの様に泣きじゃくった。
「楓…、生きてて良かった…」
雪穂の顔を見て初めて、オレは自分が本当に死の淵を彷徨った事、そして足がもうない事実を心底理解した。
その時初めて、自分の状況が悲しくなった。
愛とは、残酷なものだ。
「ごめんな」
「バカっ」
湯井も近づいて来て泣きそうな顔で「何がどうなったんだよ」と呟く。
「美鳥の事も何も進展ないのに、こんなになっちゃって、ごめん」
ハハハ、といつもの様におちゃらけた表情をしてみせても、2人は暗いままだ。
「こんな時に何言ってんの」
「自分の事だけ考えろよ、バカ」
「ちょっと〜バカバカ言わないでもらえます?流石のオレでも傷つくわ」
「…バカ」
雪穂の真っ黒な瞳からまたポロポロと涙が溢れて、それを綺麗だなって思った時、初めて雪穂を見た時の事を思い出した。
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