タイムカプセル

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タイムカプセル

30歳の夏に皆でタイムカプセルを開けよう。 小学校の卒業前にクラスの皆で校庭に埋めたタイムカプセルを開ける日が来た。 僕は6年生の時に学級委員長をやっていたので、幹事として皆に連絡を取り出席を確認した。 そしてタイムカプセルを取り出した。 皆はそれぞれ名前の書いてある、当時担任から渡された缶の箱を手に取り、中を開けて懐かしそうに見ていた。 僕の缶にも30歳の僕へと書いてある手紙や、その時に流行って集めていたカード数枚、写真、ミニカーが入っていた。 「秋川!お前今まで全然連絡もよこさないで!どうしてたんだよ!」 タイムカプセルを掘り出した後に皆で飲み会に行く途中で、中原が僕に声をかけてきた。 「ごめん、高校生の時にうちの家族引っ越ししてね」 「そうか、寂しかったぞ!でも幹事ご苦労さま」 「ありがとう」 「来なかったのは何人だっけ?」 「6人かな」 「その6人のタイムカプセルはどうするんだ?」 「住所は聞いてあるから送るよ。ただ1人だけ連絡つかなかったんだけど」 「送るのか!幹事は大変だな。連絡つかなかったのって誰?」 「みつ葉ちゃん……小林みつ葉」 「小林みつ葉?そんな女子いたっけ?」 「あまり目立たない子だったからな」 「でも、お前みつ葉ちゃんって呼んでたの?」 「保育園から一緒だったんだ」 確かに小林みつ葉は目立たない子で、保育園から一緒でも特に交流は無かった。でも僕には小林みつ葉との強い思い出がある。 5年生の時、学校の帰り道に1人で歩いていると、金魚の養殖場のそばにみつ葉が困ったような顔をして立っていた。 「みつ葉ちゃん?どうしたの?」 僕が声をかけるとみつ葉はびっくりした顔をして 「うわっ!拓人君……実は……これ見て」 みつ葉の手の中にいたのは、金魚を鳥から守るために張られていた網に翼を引っ掛けた小さな文鳥だった。 「この網がほどけなくて」 文鳥がかなり暴れたらしく、すでに翼には絡んだ網が食い込んでいた。 「これは取るの大変だな」 僕はランドセルからハサミを出して翼を傷付けないよう少しだけ網を切って、そっと外していった。 その間、文鳥はすでに暴れる体力も無さそうでみつ葉の手の中でおとなしくしていた。 僕とみつ葉は助けた文鳥を駅近くの動物病院へ連れて行き先生に診てもらった。 「これはもう翼は駄目かもしれん。身体も弱ってるし、でも身体には傷は無いから体力さえ戻れば元気になるかも。元気になってももう飛べないが」と年老いた先生がそう言った。 「どちらが面倒をみる?」と聞かれ、みつ葉がうちは……と困っていたので「僕が面倒をみる」と言った。 2人ともお金を持っていなかったので、1度家に帰ってお金をもらってくると先生に言うと 「助けて良い事をしたから、お金はいらないよ」と文鳥を小さなケージに入れ、餌を渡してくれた。 「一応、飼い主が探しているかもしれないから病院に貼り紙をしておくよ」 先生はそう言って、また来週に鳥を連れてきなさいと餌のやり方や世話の仕方などを説明してくれた。 みつ葉は「飛べなくなってしまうのはかわいそうだけど、命が助かって良かった。元気になるといいね」と言っていた。 僕は家にいきなり鳥を連れて帰ったが、お母さんが昔文鳥を飼っていた事があるからと許してくれて、家で面倒を見られる事になった。 その後、みつ葉に「鳥はどう?」とよく話しかけられるようになった。 ぴぃちゃんと名付けた鳥はだんだんと体力が回復して、飛べないけれど餌をよく食べ元気になった。 みつ葉は僕の家に何度も来てぴぃちゃんを見に来ていた。 「ぴぃちゃん可愛いね」と優しく見つめるみつ葉の顔がとても可愛くて、ドキドキして僕は後ろからチラチラと見ていた。 でも中学に入ってから、いつの間にかみつ葉は引っ越したようで連絡が途絶えた。 タイムカプセルを取りに来られなかった5人に郵送で送り、みつ葉のタイムカプセルをどうするか、みつ葉の缶を見ていたら、缶に何かで引っ掻いたような傷を見つけた。 それは文字だった。 『この缶は拓人君が開けて』と書いてあった。 僕は缶を止めているテープをゆっくり剥がし、蓋を開けた。 中には封筒と写真が入っていた。 写真は、僕とぴぃちゃんとみつ葉が笑って写っていた。 そうか、あの時に母さんが写真を撮ってくれたっけ。 封筒を見てみると『拓人君が読んで下さい』と小学生の女子が書くような文字が書いてあった。 僕は封筒から手紙を取り出した。 『拓人君、元気かな?これを読んでる拓人君は、もう30歳の拓人君なんだね。30歳の拓人君が読んでると思うととても不思議。タイムカプセル取りに行かれなくてごめんね。 なぜなら……私はもう死んでるから。30歳の私はもうこの世にはいないから。拓人君とぴぃちゃんの事は忘れないよ。仲良くしてくれてありがとう。 小林みつ葉』 手紙を読んでとても驚いた僕は、すぐに同級生の久保田亜矢にメールを送った。 『小林みつ葉と小学生の頃に仲良かったよね?小林が今、何をしてるかどこにいるか知らない?』 すると久保田亜矢からすぐ電話がかかってきた。 「私もよく知らないんだ、なんかお母さんと一緒に家を出たという噂は聞いたけれど。中1の時に、夜逃げみたいに出て行ったみたいだよ」 僕は、久保田にお礼を言って、もし小林について何かわかったら教えてと話した。 それから僕は小林みつ葉の行方を探した。 みつ葉が住んでいた家にはすでに別の家族が住んでいた。久保田からみつ葉の母親が駅前の定食屋で働いていた事も聞いたので、その店長夫婦に行き先を聞くと最初は知らないと言われたが、タイムカプセルを渡したいだけだと話すと、みつ葉の母親は夫から常に酷い暴力を受けていたと話してくれた。みつ葉の父親は酒癖が悪く、ギャンブル好きで、ギャンブルで負けると大酒を飲み、みつ葉の事も殴ったりしていた、我慢が出来なくなった母親は夜中にみつ葉を連れて逃げたようだ。その時に店長夫婦に急に店を辞めた事への謝罪の手紙がきた。もう10年以上経っているので、その住所を僕に教えてくれた。もちろん当時みつ葉の父親には絶対に教えなかったそうだ。 後日、その住所のある駅を訪ねてみた。 そこはかなりの田舎町だった。 いざ住所の家まで辿り着くと、すでにみつ葉は引っ越していた。 母親は離婚したので小林から佐野に苗字が変わっていたが、近所の人がみつ葉という娘の名前が珍しいので覚えていてくれ 「佐野さんなら、同じ市内の田畑2丁目に引っ越したよ」と教えてくれた。 僕は田畑2丁目に行き、佐野さんという家が無いか探し、人々にも訪ねた。 すると1人の老人が 「あぁ…彼女ならそこの山の寺のお墓だよ」 というので、やはり亡くなってしまったのかと力が抜けた。 寺の場所を聞き、なんで死んでしまったんだ!という想いで、とても悲しかった。手紙に書いてあったように本当に死んでしまうなんて、幼い頃の虐待で心が折れてしまったのか、なぜなんだ、そう思いながら花を買って寺に向かった。 小さな寺で、佐野というお墓は1つしかなく、すぐに見つかった。 お墓に花を入れ水を入れた。 みつ葉は、いつ亡くなったんだろうと墓に掘ってある文字を読もうとしたら 「あの?うちのお墓に何か?」と後ろから声がしたので振り返ってみると、そこに大人になったみつ葉が立っていた。 「え?あれ?このお墓…あれ?」 僕は驚いてまともに話せなかった。 みつ葉は少し不思議そうな顔をして 「もしかして…拓人くん?秋川拓人くん?」 驚いた顔でそう言った。 「そう!みつ葉…生きてたの?お化けじゃないよな?」 「あははは、お化けじゃないよ、ここお寺だけど」 そして、僕はここまで来た経緯を話した。 その寺は、みつ葉が嫁いだ寺だった。 みつ葉は僕にお茶を出しながら話してくれた。 なぜ30歳まで生きられないと書いたか 「あの頃は家に帰るのが嫌で、夜になるとお父さんがお酒飲んで暴れるのが凄く怖かったんだ。今日こそは殺される、殴られながらこれで死ぬんだって何度も思っていてね」 そう昔を思い出すように話してくれた。 だからタイムカプセルにそう書いたと。 「でも中学生になって、お母さんが連れて逃げてくれてね。それからもお母さんと2人で苦労は多かったけれど、殴られて死ぬ事からは逃げられたから、大変でも耐えられたんだ」 「今は幸せ?」 「うん、とても幸せ。優しい旦那様と息子もいるしね」 みつ葉は、にっこりと笑いながら言った。 「本当に…本当に生きていてくれて良かった」と僕も笑顔になった。 僕はみつ葉にタイムカプセルを渡し、その時に僕のタイムカプセルもみつ葉に持っていてもらえないかと渡した。みつ葉は不思議そうだったが 「みつ葉ちゃんに記念に持っていて欲しくてね」と言うと 「わかった」と言ってくれた。 それからみつ葉とみつ葉の家族に駅まで見送られ帰ってきた。 これで役目は終わった。 僕は神様に報告をした。 「神様これで心残りはありません。この数日間人間界に戻してくれてありがとうございました。会いたかった人たちに会えたし、またあの世に戻ります」 そう言うと僕の身体がだんだん光に包まれた。 高校生の時に重い病気になり、30歳まで生きられなかったのは僕の方だった。 『30歳の僕へ 僕は何になっている?水泳選手(うーん)芸能人(まさか!)会社員?それとも結婚してるかな?(誰と?あの子?!)でも、やりたい事たくさん出来てたらいいな。海外旅行にもたくさん行きたい。世界の海で泳ぎたい。世界の色んな人と仲良くなりたい。そして友達になった人を全員大切にする。夢は大きく!僕にはたくさんの可能性がある!30歳の僕も頑張って!人生楽しもう! 秋川拓人』
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