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コートのポケットに手をつっこんで、向こうの山裾へと続く田んぼ道を歩いていく。しばらく進んで振り返ると、駅舎は米粒のように小さくなっていた。見渡す限り、平坦な雪景色が広がっている。ぼくの生まれ育った村が、遠くかすかに見える。もし、吹雪に見舞われたとしたら、どれだけ恐ろしいことだろう。
いや、実際、それはあまりに恐ろしいことなのだ。あれは、小学2年生のときだったと思う。その日ぼくは、隣の村の仲のよい友達の家でゲームをしていた。格闘ゲームだったと思う。何度やっても勝てなくて、「勝つまでやる」と心に決めて、しぶる友達に挑み続けた。しかし、「夜になる前に帰りなさい」と友達のお母さんに言われて、ようやく窓の外が暗みはじめているのに気付いた。
ぼくは、「さようなら」すら言わずに、急いで友達の家を飛び出すと、自分の家をめがけて駆けていった。長靴で走るのはたいへんだったし、雪に足をとられて、何度も転んでしまった。それでも走った。陽はすっかり雪雲に隠れて、何枚も重ねた紙の向こうから蛍光灯の明かりを見ているみたいな、心許ない光だけが、雪をかぶった田んぼ道をうっすらと映していた。
もう少しで村が見えてくる。そんなときに、あたり一面が吹雪きはじめた。大風はジャンパーをぐわんぐわんと波打たせるし、よろけてしまうこともあった。目の前は真っ白で、自分の進んでいる方向がほんとうに正しいのかすら分からなくなった。ぼくは救いを求めて叫びに叫び、がむしゃらに真っ直ぐに走った。死ぬんだと思った。
しかし、しばらくすると建物が見えてきた。それは、村のだれの所有物か分からなかったけれど、農具がたくさん片付けられた、少し痛みが目立つ物置のようなところだった。ぼくはそこで、身にふりかかる大風に怯えながら、頭をかかえてしゃがみこんだ。寒さにがたがたと震えて、もう大声をあげることすらできなくなっていた。
すると、夜になってしまった。あたりは真っ暗で、光らしいものはひとつもなかった。吹雪は止んだものの、田んぼ道を村の方へと歩いて行く度胸は生まれてこなかった。無事に朝を迎えることができるだろうか。眠れば死んでしまう。また吹雪いてこないだろうか。そんなことを考えていると、涙は止まらなくなってしまった。
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