袖のともがら

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土曜日の朝、僕は均一に冷やされたアパートの自室で目を覚ました。 今年、初めて冷房のスイッチを入れたのだ。 懐かしい倦怠感を覚えながら今日が燃えるゴミの日であることを思い出し、無理やり体を起こす。 サンダルを履いてドアノブを回すと同時に「ジジジジジ」という不気味な音が僕の耳を貫く。 その音量に驚いて思わずゴミ袋を手放し後ろに飛びのいた。 跳ねる心臓を落ち着けながら、事態を少しずつ飲み込む。 蝉だ。 ドアの前に横たわっていた蝉を引きずってしまったのだろう。 このアパートに住み始めてから、何度か経験していたことだった。 今度はゆっくりとドアを押すと、何事もなく開いた。先ほどの蝉はすでに飛び立ったのだろう。 ホッとしてゴミ袋を握り直し体を入れ替えると、ドア横に座り込んでいる人間が見えた。 今度は驚くよりも先に、その人物を認識した。 柴だ。 道路を挟んで向かいの電柱脇にゴミ袋を置いた後、部屋に招き入れた彼とテーブルを挟んで向かい合う。
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