袖のともがら

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「あれは、あなたの手ではない」 「あれでは、俺に勝てない」 彼の声がゆっくりと明瞭に響いて快晴の空に吸い込まれいく。 私はその余韻にしばらく浸ってみる。 「川上と、会ったのか?」 私の絞り出した質問に答える気は、彼には無いようだった。 「盤の外になんか、将棋はない」 「あなたが縋っている、その袖の中にも」 「俺が証明しますよ」 彼が言い終わると同時に、地面を踏みしめる足音が遠ざかっていった。 私は、自分の右腕を握りしめていた左手により力を込めながら、ゆっくりと立ち上がる。 「川上、俺たち、負けるかもな」 また、一匹の鯉が跳ね上がった。
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