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記録係の仕事というのは、正直に言うと退屈なものだった。
対局中に人間が判断すべき要素のほとんどは機械に取って代わられ、一時間や二時間も盤面が変わらないのはざらだ。
師匠はタイトル戦の雰囲気に慣れておくことは有意義だと言うが、どこまで本気なのか俺は疑っていた。
自分が将来名人戦に出場するような人間であることは自覚しているが、どんな状況でもやることは将棋ではないか。
「おはようございます」
名人に五分遅れて柴八段が入室してくる。
足早に下座についた彼は、名人とは対照的に目を閉じて身じろぎ一つしなかった。
名人初挑戦となる柴八段は、棋界の評判に違わぬ豪快な将棋で第一局から三連勝していた。
そして、七番勝負で先に王手をかけながら第四局を不戦敗で落とした。
棄権の理由は体調不良と発表されていたが、コトはそれほど単純ではないだろうと関係者の誰もが考えていた。
何しろ、棋界の最高峰の舞台である名人戦を彼は棄権したのだ。
名人という称号の重みなのか、周囲からのプレッシャーに押しつぶされたのか。
何にせよ、彼が精神面で問題を抱えているのは明らかだろう。
やはりと言うべきか、柴八段の顔は露骨に憔悴していた。
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