袖のともがら

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「蓮木さん、お待たせしました。」 頭上から降ってきた声に顔を上げると、スーツを着た痩身の男が立っていた。 「川上(かわかみ)といいます。よろしく」 差し出された右手を見て、指先を軽くつまむ。 年齢は三十代後半のはずだが、彼はそれよりも童顔の印象を与えた。 テーブルを挟んだ向かいに腰掛けると、ウェイターを呼んでコーヒーを注文する。 平日のお昼時だが、喫茶店内の席は半分以上が埋まっていた。 「今日はその、イベントか何かあるんですか?」 俺の格好を上から下までまじまじと見ながら、彼が言った。 「和服で街を歩くのは目立つでしょう?」 「俺もそう思ってましたけど、ここに来るまで誰にも声を掛けられませんでした」 実際、すれ違う人たちはちらっと俺の服装と顔を見比べるぐらいで満足して通り過ぎて行った。 「名人挑戦者になっても、棋士なんて世間的にはその程度のものなんですよ」 グラスからストローに口を付けて、カフェオレを吸い込む。 「今日聞きたいのは柴さんとあなたのことです」 彼の前にコーヒーカップが置かれたのを見て、俺は本題を切り出す。 「どうやって僕のことを?」
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