袖のともがら

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「ここで3三銀だ」 柴はプラスチック製の将棋駒をつまんで盤の上に叩きつけた。 先ほど100均で買ってきたばかりの、打ちつけた衝撃で割れてしまうのではないかと心配になるほどの薄っぺらい盤と駒だ。 時間は午前三時頃とあって、ファーストフードの店内には僕たち二人の他に学生の四人組がいるだけだった。 ちょうど店の対角線上に位置するテーブルで談笑している。 「この辺で変化の余地もあったみたいだけどな。どっちにしても不利だから複雑な方を選んだんだろうが、少し長引かせただけになったな」 彼は高揚した様子で語りながら、よどみなく指を動かす。 「俺がこの手を指した時の顔は分かりやすかったな。名人も人の子だね」 小学校からの幼馴染である柴が将棋のプロ棋士になったことを知ったのは、二年ほど前のことだった。 彼の方から、実家を出て上京することになったから一度会おうと誘ってきたのだ。 高校を卒業してから会っていなかったので七年ぶりの再会だったことになるが、その時に印象的だったのは彼の表情だった。 高校生の頃、普段一緒に登校していた僕は、彼の顔が日に日にやつれていくことに気付いていた。
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