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と言っても、それは柴大輔という人格に対してのものであって、将棋の実力とは別個のものばかりだった。
「生意気だ」
「素行が悪い」
「人として尊敬できない」
彼の将棋に対する評価を探すのに一苦労する程度には、そういう批評が湧いているようだ。
しかし、それらの批判の言葉には
「将来、この業界の上に立つ者でありながら」
という言葉が隠されているような気がしてならなかった。
そういう評判を知っていた僕の目には、ファーストフード店で素人相手に対局について自慢気に話す彼の姿は哀れに映った。
僕はといえば、数十分前から意識を手放すことに躍起になっている。
もちろん彼の『ご指導』からいち早く逃れるために、だ。
しかし、その度にジャンクフード特有の嫌な油の匂いが鼻を刺激し、胃の内容物がせり上がってきていた。
「この分だと、七番勝負の一局目にして勝負アリって感じだな。何回やっても勝つぜ、俺」
完全に無視を決め込んでいた僕はテーブルに突っ伏したまま、何とかシャットアウトを試る。
その甲斐あってか、いつものベッドで眠る時のような浮遊感を得始めていた。
あと少し、もう少し。
環境音や話し声が浮かび上がり、そして遠ざかっていく中、柴の声がやけに明瞭に響いた。
「川上、俺、名人になるわ」
***
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