取り引き

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取り引き

 ……はい?今、なんて……? 私を地下牢から、出す……?しかも、公開処刑もなし……?えっ……?  予想の斜め上を行く申し出に、私は思わずフリーズする。 混乱する私を他所に、トリスタン王子は己の考え(欲望)を赤裸々に語り始めた。 「こんなに冷たい地下牢に閉じ込められて、怖かっただろう!?でも、もう大丈夫だ!私がお前を助けてやる!私のものになると言うのなら、今すぐにでも出してやろう!そして、王家が管理する別荘地で私と愛を育むのだ!」 「……え?」 「寂しくないよう、きちんと隅々まで愛してやるからな!私は愛情深い人間だ!途中で捨てたりしないと誓おう!さあ、メイヴィス!今こそ、私に身も心も委ねるのだ!」  そう言って、トリスタン王子は鉄格子の隙間から手を差し伸べた。 傷一つない綺麗な手を前に、私はワナワナと震える。 目の前が真っ赤になる感覚を覚えながら、私は唇を噛み締めた。  はっ……?私を地下牢に閉じ込めたのは、貴方でしょう……?なのに、『私がお前を助けてやる!』ですって……? 貴方が諸悪の根源なのに、何でヒーロー気取りなの?ついに頭が壊れたのかしら?ここで、その提案を受け入れられると本気で思ってるの?だとしたら、本当におめでたい人ね。  ドロッとした負の感情に支配される私は、グッと拳を握り締める。 今すぐ殴り掛かりたい衝動を抑えながら、私はトリスタン王子を睨みつけた。 「私の尊厳もハワードの命も奪い去っていった、貴方なんかに────身も心も捧げるつもりはありません!!貴方のものになるくらいなら、死んだ方がマシよ!!」 「な、なんだと……!?」  まさか断られるとは思っていなかったのか、トリスタン王子は目に見えて動揺を表した。 が、直ぐに正気を取り戻し、反抗的な私の態度に怒りを募らせる。 顔を真っ赤にして怒り狂う彼は、感情の赴くままにガンッと鉄格子を蹴りつけた。 「このっ……!!生意気な女め!!優しくしていれば、つけあがりやがって……!!なら、そのまま死んでしまえ!死刑執行日まで、震えながら待つといい!」  トリスタン王子は地下牢全体に響き渡る声でそう叫ぶと、来た道を引き返した。 徐々に遠ざかっていく足音を聞き流し、私は肩の力を抜く。  これが最善の道だったのかは分からない。 でも、好きでもない男に純潔を奪われるなんて……絶対に嫌だった。 純潔を守り抜くための代償が私の命なら、喜んで支払おう。  生還という淡い希望を自らの手で握り潰した私は、確実に早まった死期に思いを馳せた。
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