【終章】幸せな一時

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【終章】幸せな一時

 眩い光に包まれて転移した私達は、恐る恐る目を開ける。 そして、真っ先に目に入ってきたのはハワード・カシエル・アイシャさん・ヘレス様の姿だった。 「お帰りなさいませ、レーヴェン様。並びにメイヴィス様」 「もう宴の準備は、出来てますよー!今日だけ、特別にお酒も用意しました!」 「今日くらい、パーッと飲んじゃいましょう!地獄に落ちた人間達のことなんか、忘れて……ねっ?」 「そうだ。あいつらのことは気にすんな。俺達が責任を持って、拷問……いや、更生させてやるから」  旦那様の執務室に集う四人は、私達を暖かく迎え入れてくれた。 復讐を終えてきた人とは思えない、満面の笑顔で。 人間の価値観に染まった私には、異常に見えるが────不快感を抱くことはなかった。 何故なら、彼らの考えを、性格を、感情を受け入れているから。 「ただいま戻りました」 「出迎え、ご苦労様」  手短に挨拶を済ませる私達は、定位置となりつつある三人掛けのソファに腰を下ろした。 “家”に帰ってきて、緊張の糸が切れたのか、私は体の力を抜く。 ソファの背もたれに寄り掛かり、『ふぅ……』と一つ息を吐いた。 カシエル達の運んでくる料理や飲み物を眺めながら、私は物凄い安心感に包まれる。  不思議ね。ここに来てから、まだ日も浅いのに自分の家だと、しっかり認識している。 慣れるまで、もっと時間が掛かると思ったのに……。  『思った以上に馴染んでいるわね』と肩を竦める私は、心地いい空間に身を委ねた。 ハワードに手渡された果実水を手に持ち、待機する中、旦那様に乾杯の音頭を頼まれる。 私は『無理だ』と断ったものの、周囲に押し切られてしまった。 『本当に自分でいいのだろうか……』と考えつつも、任されたからにはしっかりやろうと、覚悟を決める。 「えっと……それでは、皆さんお疲れ様でした────乾杯!」 「「「乾杯!」」」  乾杯の挨拶に続いて、彼らはグラスを持ち上げる。 そして、飲み物を一口煽ると────怒涛の勢いで復讐の報告が始まった。 教皇は臆病だっただの、国王は生意気だっただの、と言いたい放題である。 ワイワイと盛り上がる彼らを前に、私はケーキに手を伸ばした。  会話の内容はちょっと物騒だけど……こうやって、賑やかに過ごすのも悪くないわね。むしろ、好ましく思う。 教会に居た頃は聖女としての品格を重視されて、誰かと食事することさえ、出来なかったから。  素直に『楽しい』と思える食事に、私はスッと目を細める。 自分の欲しかったものはこれだと確信しながら、旦那様たちの笑い声に耳を傾けた。 復讐を終えたばかりだというのに、心は驚くほど穏やかで……夕凪のようにシンとしている。 こんな風に過去を乗り越えられたのも、きっと皆のおかげだろう。 『旦那様たちに出会えて良かった』と改めて思う私は運命に感謝しながら、幸せな一時を過ごすのだった。
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