終わりの時は近づく

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終わりの時は近づく

 ────それから、約半月の月日が流れ、私はついに死刑執行日を迎えた。 約二週間に渡る牢屋生活ですっかり痩せこけてしまった私は、薄汚れた自身の手を見つめる。 誰もが絶賛していた美貌は未だ健在だが、かつての面影は一切残っていなかった。  見窄らしい姿で、あの方のところへ行くことになるなんてね……いや、そもそも────私はあの方のところへ、行けるんだろうか? だって、私は予定より二年も早く死ぬのよ……?約束を守れない花嫁など要らないと切り捨てられたら、どうしよう?  『失望されるかもしれない』と不安になる中、誰かの足音が耳を掠めた。 「────メイヴィス、もう意地を張るのはやめろ。いい加減、私のものになると言え」  そう言って、私の前に現れたのはトリスタン王子だった。 やれやれといった様子で肩を竦める彼は、『はぁ……』と深い溜め息を漏らす。  ここ最近……もっと正確に言うと、私の死刑執行日が決まってから、彼は毎日のように地下牢へ足を運んだ────私を説得するために……。 どうやら、このまま死なせるのは惜しいと考えているようだ。  でも、『死んでしまえ!』と暴言を吐いた手前、無理やり連れていくことは出来ない……それだと、自分のプライドに傷がつくから。 トリスタン王子の理想はあくまで、『死にたくない』と懇願してきた私を広い心で受け止めることだものね。 「メイヴィス!私の話を聞いているのか!?このままでは、本当に死んでしまうんだぞ!お前はそれでいいのか!?」   「……」 「お前だって、死ぬのは嫌だろう?だから、早く私のものになると言え!今ならまだ間に合う!」 「……」 「メイヴィス!!」 「必死の説得、ありがとうございます。でも、私の考えは絶対に変わりません────トリスタン王子こそ、いい加減諦めてはどうですか?」  私は淡々とした口調でそう言い切ると、彼から視線を逸らし、固く口を閉ざした。 鉄格子の向こうから聞こえるトリスタン王子の声を無視し、私はそっと俯く。  私は神様(旦那様)以外の方に、身を捧げるつもりはない。もちろん、心だって……。 私の全てはあのお方のものだから。  私は僅かに感じる旦那様の気配に頬を緩めながら、死刑執行を待った。 そして────。 「────元聖女メイヴィス、死刑執行の時間になった。今から、広場に移動するぞ」  地下牢を訪れた一人の兵士は、私の手錠と繋がった鎖を持った。 ────ついに死刑執行の時が来たらしい。  嗚呼、やっと地獄の日々が終わるのね……。  私は達成感にも似た感情を抱きながら、ゆっくりとベッドから降りた。
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