処刑

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処刑

 案内役の兵士に連れられるまま、街の広場にやって来た私は磔にされた。 異様な雰囲気に包まれる広場は、私の死ぬさまを一目見ようと、多くの人で溢れ返っている。 来賓席には、先程お会いしたトリスタン王子や教皇聖下の姿もあった。 「静粛に!!」  ざわざわと騒がしい人々を一喝し、黙らせたのは、死刑執行人の男性だった。 松明を片手に持つ彼はグルッと辺りを見回し、一歩前へ出る。 「罪人メイヴィス。貴様は十八年間、聖女だと身分を偽り、我々を騙してきたとんでもない悪女だ。よって、貴様を────火あぶりの刑に処す!」  死刑執行人の宣言に、周囲の人々は歓声を上げた────と同時に罵声を飛ばす。 「この悪女め!!」 「よくも俺達を騙しやがったな!?」 「あの世で自分の罪を悔やむんだなぁ!」 「魔法も使えない無能のくせに、十八年間も聖女の座に居座るなんて、何様だよ!?」 「さっさと死んでしまえ!」  笑顔で接してくれたあの頃が嘘のように、民達は思い切り顔を顰めた。 トリスタン王子たちの策に踊らされているとは言え、まさかここまで豹変するとは……。 私が守りたいと思っていた民の姿は、もうどこにもなかった。  そうか……この人達も無能な私にずっと不信感を抱いていたのね。 結局のところ、誰一人として聖女の本質を理解していなかった訳だ……。  やるせない気持ちでいっぱいになる私は、力なく笑う。 味方なんて、一人も居ない状況に打ちひしがれる中────死刑執行人は一歩前へ出た。 「────では、これより罪人メイヴィスの刑を執り行う!」  そう言い終えるや否や、死刑執行人は手に持つ松明を私の足元に投げ入れた。 十字架に燃え移った炎はあっという間に大きくなり、確実にこの身を焼いていく。 逃れることの出来ない熱さと痛みに、私は身を捩った。  熱い……苦しい……肉の焦げる匂いがする……。 これなら、ギロチンで首を刎ねられる方がずっとマシだわ……。 「もっと燃えろ!」 「もっと苦しめ!」 「俺達を騙した罰をしっかり受け止めろ!」  私の処刑を見に来た民たちは、冷たい声で乱暴な言葉を吐く。 そして、道端に落ちている石ころを拾うと、私に向かって投げつけて来た。 飛んできた石は額や頬に当たり、あちこちから出血する。口内も鉄の味に変わった。 でも、民達の追撃は止まらない……むしろ、どんどん酷くなっていく。  私は聖女として……一人の人間として、彼らの生活にあまり貢献出来なかったかもしれない。力不足だったかもしない……でも、己の役割はきちんと果たしてきたつもりだ。 イベントのときは出来るだけ多くの民と関わり、様々な相談に乗ってきた。 私の働きなんて微々たるものだけど、一人でも多くの人を救おうと動いてきた筈よ。 なのに……これが彼らの答えなの……?  石ころが投げ付けられる度、私の心は絶望に染まり、民の罵声を聞く度、彼らと過ごした日々が黒いインクで塗りたくられていった。 もう全てに疲れ切った私は炎の熱さに身を委ね、そっと目を閉じる。  もう何もかもどうでもいい······。  ポロリと一筋の涙が流れたとき────私の意識は遥か彼方へと飛んで行った。
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